マーケティングミックス(1)【第45回】

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前回は『ターゲティングの方法』というテーマで、現在マーケティングにとって最も重要なSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の解説を致しました。今回は、そのターゲットに対して、どのように製品情報を届け(集客し)、売上に繋げていくのかを説明したいと思います。
マーケティング戦略ではこれをマーケティングミックスとかマーケティングの4Pと呼び、具体的な製品販売手法の分析に活用しています。今回はここに少し触れていきましょう。恐らく1回では難しいと思いますので2回に分けて進めます。過去にも似たような記事をいくつか投稿しているので併せて参考にして頂けたら幸いです。

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マーケティングミックスとは~前編

まずは教科書的な解説

今回は、まずしっかりと教科書的なところから解説します。マーケティングミックスと言えば、やはりマッカーシーの4P理論です。4Pとはジェローム・マッカーシー(Jerome McCarthy)が1960年に自著である『ベーシック・マーケティング』で提唱した概念で、マーケティングではあまりにも有名な分析方法です。(私はフィリップ・コトラーの言葉だと思っていましたが。。。)

具体的には、Product(製品)Price(価格)Place(流通)Promotion(プロモーション)のことで、それらのすべてがPで始まることから、4つの頭文字をとって4Pと呼ばれています。

マーケティングの4Pと4C

このマーケティングの4P売り手目線の考え方です。マーケティングは常にお客様が起点になっている必要があります。そのため、マーケティングの4Pお客様の目線で考えたものがマーケティングの4Cです。
マーケティングミックスというぐらいなので、これら4つの視点で自社の製品を分析し、連携させながら、もっとも効果的な販売方法を決定します。もちろん、全てを使う必要はありません。フレームワークを埋めていくことよりも『最も収益を残すためにはどうすれば良いのか?』を必ず念頭において、それぞれの項目で進めていくことが重要です。

BtoB系製造メーカーにとって、この4Pの分析がうまく使えないという方も多いのではないでしょうか?正直、私も理屈としては頭に入れて判断しますが、それほどここを掘り下げてはいません。
なぜなのでしょうか?それは、他の投稿でもしばしばお話をしていますが、BtoB系製造メーカーの場合、対象のお客様がほぼ固定され、対象数も少ないからです。また製品の開発期間も長く、途中で変更が難しいため、STPの時点でほぼ製品戦略が完了してしまうからだと考えています。
そのため、BtoB系製造メーカーの場合、4Pの分析では価格戦略(Price)とプロモーション(Promotion)を特に意識して分析していくのが良いと考えています。STPの時点である程度、製品戦略を終え、プライシング(どうやって収益をあげるのか)とプロモーション(その製品をどうやって販売するか)にしっかりと時間をかけて検討することが大事です。

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では、マーケティングミックスのそれぞれの戦略についてみていきましょう。

1.製品戦略(Product)

ちょっと前に話をした通り、BtoB系の製造メーカーの場合は、この製品戦略STPのプロセスと同時に行われてしまうことも多いのですが、今回はより教科書的な内容も盛り込んでいくので、少し説明をしていきましょう。
製品戦略は他社製品との差別化を見つけ出し、販売を有利に進めるための戦略です。差別化の考え方については下記のような切り口があります。

1)製品の特性・・・コア機能(その製品の根本的な機能)ではなく付随機能の差別化
2)ブランド(ネーミング)・・・既存のブランド、または全く新しいブランドで打ち出すのか?
3)保証やアフターサービス
4)パッケージング・・・製品のパッケージ(色、形、素材など)

特に製品特性で重要なのは、コア機能(掃除機で言えばごみを吸うという機能など)は大きな差別化にはならないということです。BtoB系製造メーカーはこのコア機能をより強化しようという傾向がありますが、コア機能は差別化効果が非常に弱いのです。掃除機の吸引力にこだわるユーザーがどれくらいいるのか?ということです。
コア機能ではなく、それに付随する機能、掃除機で言えばコードレス、小型軽量、充電時間など、付随機能で差別化をつけていくことが製品戦略では重要なことになります。

残りの項目は読めばなんとなくわかりますね。ブランド力がしっかりした製品の場合、そのブランドイメージを壊さないように製品戦略を立てた方が、よりブランド力を活かせます。高級ブランドの製品はは高級品としての製品戦略を立てる、ということです。
例えばシャネルが \500の化粧品を販売することは絶対にありえないわけです。但し、これを逆に使う例は良くあります。非常に安価なスナックが『大人の〇〇』などという製品戦略で少し購入なイメージにして販売する戦略などです。
保証アフターサービスはBtoBでも活用できる製品戦略です。コピー機のように製品販売と同時に、機械の保守契約を結び、使用している期間内は一定の保守費を支払うことで全てのメンテナンスをしてもらうようなビジネスです。製品よりも、納品後の収益が高くなる、次章の価格戦略にも連携するビジネスですね。この保証アフターサービスは自社だけで展開することは簡単ではないですが、良いビジネスモデルが構築できれば大きな収益を上げることができます。
最後に製品のパッケージですがBtoCでは、これが販売に大きな影響を与える製品戦略です。菓子や飲料におけるパッケージデザインは中身よりも重要なことが多く、またパッケージそのものがブランド化することもあります。またネーミングなども重要な要素です。ネーミングを変更してヒット商品になった事例は多いですが、いずれも顧客目線で見直した結果が成功に繋がっていることがわかります。

今では有名な王子ネピアの『鼻セレブ』。しっとりとした保湿ティシュで、当初は『ネピアモイスチャーテッシュ』で販売をしていたのですが、保湿ティシュという市場が確立されておらず、製品の差別化が上手く伝わっていない状況でした。
そこで徹底的な製品戦略を立て直し、ネーミングパッケージ(うさぎの鼻をアップにしたパッケージデザイン)にしたところ売上が10倍以上に跳ね上がったということです。顧客目線に沿ったネーミングは得てしてわかりやすさ側にある感じがしますね。
先日TVで製品紹介されていたのですが、ケミカルジャパン様のビニール袋が繋がってロール状態で売られている商品『次が使いやすいゴミ袋』。機能も便利なのですが、元のネーミングが『Roll Polly』だったそうで、ネーミングを上記の『次が使いやすいゴミ袋』にして売上が大幅に増えたということに興味を覚えました。コモディティ製品ほど、わかりやすさ、大事ですね。

ケミカルジャパン ゴミ袋 次が使いやすいゴミ袋 20枚入×3個パック 半透明 10L HD-504N

価格戦略(Price)

価格戦略は製品販売の醍醐味ですね。このデフレの時代に製品の価格を上げることは非常に難しいですが、顧客の価値に対して製品をしっかりと提供することができれば、不可能な話ではありません。以前に私が投稿した『私の母の価値感【第3回】』で指摘をしてきたり、それこそチョコレートのおまけのシールが数万円になったり、顧客の価値によって価格は変化します。
一番重要なのは原価+利益=価格ではないということです。BtoB系製造メーカーは、まだまだプロダクトアウトの視点が残り、上記の計算式で製品や、パーツ、消耗品を販売していることが多いと思います。顧客価値-原価=対価(収益)の考え方をするようにしましょう。
では、価格戦略をいくつか解説していきましょう。

1)ペネトレーション戦略・・・市場シェアを迅速に取るために導入時に安価で販売し市場を押さえる
2)スキミング戦略・・・導入時から高額で販売し、固定費を早期回収し製品ブランドを構築する
3)カスタマイズ戦略・・・地域、顧客層などによって販売価格を変える
4)リカーリング戦略・・・製品は安価で販売し、その後、製品の消耗品等で永続的に利益を上げる
5)サブスクリプション戦略・・・製品ではなく製品機能を月額料金とし、使用料を毎月定額でもらう

ペネトレーション戦略BtoB系製造メーカーではなかなか実行が難しい価格戦略だと思います。まず、導入当初は相当なマイナス(投資)になるので、将来的にこれを回収できなければ会社は倒産してしまいます。この戦略を取れる企業は、相当量の見込み客(100万以上)がいて、販売量に応じて原価が大幅に下がる(変動費率が少ない)製品を扱っていることが絶対条件です。また、以前の携帯会社のようにスイッチングコストを意識させる価格戦略(製品戦略)も重要です。長期割引が無くなってしまう、電話番号が変わってしまうなどという実費的なものだけでなく、心理的な負荷も含めてです。
当然ながら、損をしている間、持ちこたえられる資金力も必要となります。

スキミング戦略は全く逆です。導入時から高額で販売する価格戦略で開発費も含めた固定費を早い段階で回収してしまうわけです。市場が成長したステージでは固定費が軽くなっており、競合が出てきた時点では価格のコントロールも余裕を持って行えます。Apple社のiPhoneなどは、この戦略ですね。

BtoB製造メーカーのマーケターもこの戦略を必ず狙いますが、うまくいっていないのが現状です。この戦略を有効に活かすには、圧倒的な製品の差別化価格弾力性の低さ(価格の上下が製品の販売数に変化を与えない)が備わってないと独りよがりな価格戦略になります。
製造メーカーはどうしてもこの差別化を製品の性能に求めるのですが、顧客課題をしっかりとリサーチして、製品性能+1の価値提供を考えていくことが重要だと思います。

カスタマイズ戦略は価格の設定をいろいろなセグメントで変える価格戦略です。都市部と過疎部、山間部と沿岸部、大会社、中小企業などいろいろなセグメントで価格を変更し、シェアと収益の最大化を細かく分析します。

リカーリング戦略サブスクリプション戦略は似ている価格戦略ですが、前者は製品は販売した上で、それに使用する消耗品で収益を上げていくビジネスです。有名なのはジレット社の交換刃方式の髭剃りですが、家庭用のインキジェットプリンターなどもそのたぐいですね。
これに対してサブスクリプションは製品そのものは無料、または形がありません。その提供するサービス(機能)に対して月額で使用料を支払う価格戦略です。NETFLIXなどの動画配信サービスや、ソフトウェアのクラウドサービスなどがこれに当たります。

このリカーリングサブスクリプションについては『製造メーカーのゲームチェンジ【第12回】』に詳しく書いていますので是非、見てみて下さい。(不思議と1番閲覧数の多い投稿です)

製造メーカーのゲームチェンジ【第12回】
自社の製品が売れなくなった時に、新しい製品を生み出していくことが必要なことは過去の記事でも述べてきました。その際、ビジネスの仕組みを変えることを考えていかなければなりません。特にBtoB企業の中でも製造メーカーは自社の製品販売に偏り過ぎて...

価格戦略は自社のシェアやブランド力、製品特性などによっても大きく異なってきます。またBtoB系の製造メーカーの場合、生産量の問題も価格戦略に大きな影響を与えます。収益だけを考えて販売量を減らせば、製品1個当たりの生産のコストが上がり、最終的には会社全体の収益を減収させてしまうこともあるのです。他のマーケティングミックスと上手く組み合わせて会社全体として、最も収益の上がる戦略立案を考えていくことが必要です。

さて、今回も結構長くなってしまいました。残りの流通(Place)プロモーション(Promotion)については次回に説明致します。なるべく早めに更新をしますので是非、次回もご期待ください。では、まだ次回、ごきげんよう!

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