プロダクトライフサイクル【第48回】

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サイクルマーケティング

マーケティングを語る上でプロダクトライフサイクルに触れないわけにはいきません。製品には市場に投入された初期時点から市場を退場していくまでの製品寿命があります。比較的長いものもあれば、1年程度で、切り替わっていく製品もあります。BtoB系製造メーカーの製品は比較的長いものが多いですね。このプロダクトライフサイクルのどの位置にあるかでマーケティング戦略は大きく変わってきます。今回は、このプロダクトライフサイクルと、それぞれの段階でのマーケティングについて説明したいと思います。

プロダクトライフサイクルとは

プロダクトライフサイクルとマーケティング

プロダクトライフサイクルとは、自社の製品事業が、そのスタートしてから撤退するまでのプロセスを『導入期』『成長期』『成熟期』『衰退期』の4つに区分し、その各プロセスの時点で売上や収益などがどのように推移していくかを表している理論です。
あくまでも一般論なので、全ての製品事業に適合するわけではありませんが、マーケティング戦略を考える上で、投入製品の市場がどの状態にあるかを認識することは極めて重要です。
主にマーケティングの過程上では、環境分析からSTPの設定時点で使われ、製品戦略の方向性を見出すのに活用します。

プロダクトライフサイクル

一般的なプロダクトライフサイクルは上記の通りです。先ほど述べたように全てのものに適用されるわけではありません。例えば、食べ物やファッションなどはこのサイクルが一定の時期に繰り返すこともあります。今はSNSなどであっという間に拡散する時代なので以前よりは急激にかつ短いスパンになる傾向が強いです。
また、これは一つの製品だけでなく、ある事業市場(ポータブル音楽プレイヤーとかタピオカドリンクなど)にもありますし、一企業にもこういったサイクルは存在します。よく企業30年説といいますが、成長点を経験した成功企業でさえ、次の基幹製品を生み出さなければ30年サイクルで倒産してしまうということです。

イノベーター理論

イノベーター理論とは、社会学者であるエベレット・M・ロジャースが提唱した、イノベーションの普及に関する理論。商品購入への態度により、社会を構成するメンバーを5つのグループ(イノベータ、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガード)へと分類したものである。

本ブログはいつもの通りBtoB系製造メーカー向けに発信しているものなので、その目線で見てみるとい、実はBtoB系製造メーカーは比較的製品ライフサイクルが長いものが多いと思います。そのため、何か新規市場に事業を拡大する時や、本体のオプションとして装備される仕様などを分析する時に参考にすると良いのではと思います。
ではBtoB系製造メーカーをイメージして各ライフステージごとの製品戦略を見ていきましょう。

導入期【売上小コスト大】

導入期は新製品が市場に投入した段階です。当然、売上はまだまだ小さく、製品コストも高い状態なのです。マーケティング戦略市場拡大で、いかに市場に製品・サービスを認知してもらうかがポイントになります。
導入期は、収益がマイナスことが多く、早く軌道に乗せないと赤字幅が広がってしまいます。携帯端末や動画配信サービスのように軌道に乗れば相当数のユーザーが見込める製品・サービスであれば、ある程度の先行投資が可能ですが、BtoB系製造メーカーの製品の場合、販売量もそれほど多くないため、なるべく早く製品販売を軌道に乗せる必要があります。また販売価格についても、早期普及だけを考えた安易な低価格販売は、その後の価格に影響を与える可能性があるので注意が必要です。

1)モデルユーザー(イノベータ)構築
導入期は自社に協力的なお客様(モデルユーザー)に絞り込んで製品販売を進め、製品の初期不良を確認したり、ビジネスモデル(その製品の理想的な活用方法)の構築を共同で進める

2)仕様の構築
モデルユーザーで評価された製品のUSP(ユニークセールスポイント)を徹底的に販売資料に落とし込み、製品はカスタマイズはせず、シンプルなスペックで初期導入ユーザー(アーリーアダプター)を獲得する。

3)モデルユーザー構築
モデルユーザー初期導入ユーザーは非常にありがたいお客様であり、安く販売したいところだが販売価格を安易に下げると、成長段階に入った時もその価格が市場価格になる可能性がある。初期ユーザーには製品のワランティの延長や無料のアップデートなど価格以外で還元するようにしたい。

BtoB系製造メーカーでも先行投資型戦略がとられることがあります。その戦略導入時に製品を原価レベルで一定量、市場に投入してしまいます。すると導入したお客様の数社から、その製品のビジネスモデルが浮かび上がります。
つまり自社でビジネスモデルを考える代わりに、製品を配布することでお客様にビジネスモデルを見つけてもらう方法です。自社で考えるよりも迅速かつ的確にビジネスモデルを構築でき、また初期段階で実績が多数あることを宣伝することができます。
『こんなに売れているのか』という印象を市場に持たせることで、短期間で製品を市場に浸透させることができます。

成長期(売上急成長、コスト減少)

製品が市場に浸透し、製品価値が認められだすと、売上は急成長しそれに伴って原価は減少します。
ところが、実は導入期から成長期の間に大きな溝(キャズム)があると言われており、ここを突破することが製品販売の成否を決めるのです。

キャズム理論

マーケティングコンサルタント・ジェフリー・ムーアが、その著書『Crossing the chasm』で提唱。ハイテク業界において新製品・新技術を市場に浸透させていく際に見られる、初期市場からメインストリーム市場(成長市場)への移行を阻害する深い溝を「キャズム(Chasm)」と呼び、従来のイノベーター理論における「普及率16%の論理」を否定したマーケティング理論のこと。

BtoB系製造メーカーでこれを乗り越えるための要素は、初期導入ユーザー(アーリーアダプター)の活用製品プロモーションです。

1)初期導入ユーザー活用
初期導入ユーザー(アーリーアダプター)は製品価値を認めて採用してくれた最重要なお客様で、製品の広告塔の役割を果たす。販売用のドキュメントやユーザー向けの会報などを利用して宣伝したり、そのお客様で内覧会を実施したり、最近ではYoutubeなどの動画コンテンツなど拡散性の高いプロモーションを活用し、市場優位性を獲得する。

2)ブランド力の育成と差別化戦略
成長期は売上も伸びるが、新規参入業者が増えてくるので、シェア利益確保のために製品のブランド力を育成し、他社にはない差別化要素を構築することで市場優位性を常に維持する。

前項のキャズム(成長期への溝)を超えた商品は一気に販売量が加速していきます。新規に参入してくる企業も増えてくるため、先行している企業は競合が参入しづらくさせる戦略を立てなければいけません。製品の規格を抑えることができれば、最も強い算入障壁となりますが、自社の規模や資源にあった絶対的な差別化要素を製品に付加することができなければ競争には勝てません。
逆に自社が成長市場に新規参入する時も同じです。先行している企業がある程度市場の優位性を握っているので後発で乗り込む企業は、より強い差別化が必要になります。

成熟期

成熟期に入ると売上は鈍化し、収益も頭打ちになってきます。また市場での各企業の立ち位置もはっきりとしてきます。コトラーは市場における企業の位置を4つに分類し、それぞれの位置ごとに取るべき戦略を示しています。

1)リーダー
市場の中でナンバー1の企業ブランド力があり、売上、収益で競合より最も優位な位置に立つ。競合の差別化(スペックや価格)を常にフォローし、ブランド力を活かして市場優位性を維持する。

2)チャレンジャー
リーダーを追いかける2番手グループ。とるべき戦略はリーダーの製品に対する差別化戦略です。リーダーがフォローできないような差別化要素を製品に取入れ、シェアの拡大を狙う。

3)フォロアー
3番手グループ。リーダーやチャレンジャーと同じ製品特性であれば、コスト戦略で売上を拡大するしかないが、当然収益が悪くなるので長続きはしない。早い段階でチャレンジャーまで規模を拡大するか後述のニッチャーの立ち位置にシフトする必要がある。

4)ニッチャー
市場を細分化し、ある特定領域に専門化してトップシェアをとるグループ。言い換えれば狭い範囲でのリーダーの立場をとることになる。戦略はより専門的に製品をカスタマイズすることでファンを作り、一定の売上の中で市場地位を獲得する。

自社がその市場においてどういった位置にいるのかをしっかりと認識して戦略を決めていくことが重要です。また、成熟市場だからといって、全く事業が伸ばせないわけではありません。
たとえば、哺乳びんなど乳幼児用製品で有名なピジョン社ベビーカー市場に乗り出したとき、市場は既にコンビとアップリカの2社が独占していました。その市場に対し、シングル大径タイヤを採用し、段差の乗り越え、赤ちゃんの乗り心地と安全性を差別化要素にして、今では30%近いシェアを持つようになった事例もあります。
顧客価値をしっかりと見つけ、差別化要素を打ち出せれば成熟市場でもまだまだ売上を高めることは可能ですし、その差別化でもう一度成長市場に戻すことも可能となります。
マイケル・ポーターは競争戦略論で、市場で戦っていくのは『差別化戦略』『コストリーダーシップ戦略』『ニッチャー戦略』の3つを上げています。

衰退期

衰退期は文字通り、市場が縮小し、売上も収益も次第に減少していきます。ここでの戦略は撤退のタイミングの見極めです。
すでに収益が見込めなくなっている場合は早期撤退です。出血をなるべく抑え、次の事業に資源を投入していかなければなりません。市場で大きな成功を収めた会社ほど、次への施策が遅れ、ずるずると収益の無い製品・事業に依存してしまうことがあります。

では撤退タイミングを見極める必要がある状態とはどういう時でしょうか?

1)残存者利益
衰退期に入ると競合が次々と撤退する。すると市場が小さくてもプレイヤーが減るのでそれなりの売上と収益を上げることができる。この状態の製品は収益性も高まることが多く、この残存者利益撤退のタイミングを見極める必要がある。

2)製品価値の再定義
従来とは違う部分に価値が見出されたことによって、一定量の売上が確保できることがある。レコードが再び流行り出したのも音質ではなく、レコードジャケットの持つデザイン性に価値が再定義され製品寿命が伸びている(レコードの場合は市場が再生したというべきかもしれない)

一般的には、衰退した市場にあえて出ていくことはありません。最近は製品のライフサイクルも非常に短くなっており、BtoB系製造メーカーでも短期間で製品をローンチし、短期間で回収撤退の戦略が必要だと考えます。また、それを支える製品開発力マーケティング力がより重要になってきます。

いかがでしたでしょうか?今回はプロダクトライフサイクルを題材に、市場のそれぞれの状態で、どんな販売戦略があるかを説明させて頂きました。マーケティングのやり方には絶対な法則はありません。いろいろな製品に対していろいろな戦略を検討し、もっとも収益が最大化できるやり方を見つけていくことがマーケティングの基本です。知識としていろいろな戦略やフレームワークを備え、製品販売する時にうまく使えるようになれるようにしていきましょう。では、今回はここまで、ごきげんよう!

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