BtoB製造業の販売プロセス【第109回】

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名刺を渡す営業マンソリューションビジネス

いやぁ、前回の投稿『EQ(Emotional Intelligence Quotient)~リーダーの必須スキル【第108回】』から1年が過ぎてしまいました。実は昨年2月より、初めて海外販売部門を任されたのですが、私が今まで培った販売マーケティングなどとは程遠い(本当は一番活かさなければならないのですが。。。)業務を経験しながら、それこそ、日々英語力の向上の方に忙殺されてしまいました。
相変わらず英語力は向上していないのですが、1年経って業務はやや落ち着き、海外、特に中華圏・アジア地域の販売を見渡すと、まさに10~15年前の日本の状況なのに改めて気がつきました。そうなんです。海外の産業機械メーカーも販売のピークが過ぎ、またそのお客様も統廃合が進み、数を大きく減らしています。ということは私が10年前に経験し、日本で取り組んできたことが、これら海外の国ではこれから起こるということです。
ということで現在、以前作成した資料を再度引っ張り出し、海外販売への教育に使用し始めたのですが、このブログが大いに役立っているのです。(英訳が。。。)
そこで、もう一回このブログを自分で読み返し、再録の形でまとめることで日本の製造業の皆さまにも役に立つのではないかと思います。もちろん、今まで同様、製造業に役立つ新しい情報やビジネスTipなども、ゆるゆると投稿を再開していきたいと思いますので、再び宜しくお願い致します。

BtoB製造業(法人営業)の販売プロセス

7つの販売プロセス

車や保険など広く一般消費者に販売する BtoC 営業マンも、大型の産業機械を企業に販売する BtoB 営業マンも、お客様との人間関係を構築し、製品を提案しながら成約に結びつけていくということにおいて似ています。またBtoB 営業マンは一般的に法人営業と呼ばれます。法人(企業)に対して営業を仕掛けるからですね。その営業の特徴からBtoB 営業マンは製品を販売するプロセスだけでなく、その前後も重要になります。時には製品を販売した後のフォローの方が重要になるケースもあります。また1個人に対してだけではなく、その会社のあらゆるキーパーソンと関わりながら製品を販売する点も法人営業の特徴です。まさにいろいろな戦略を立て、あらゆる人脈を使いながら顧客と長期的な関係を築いていく法人営業は、様々な仕事の中でも最もやりがいのある職種だと思います。
私はしばしば、このブログの中でも『営業は誇り高い職種である』ことを伝えてきていますが、法人営業は会社の代表として顧客に接し、そしてプロフィットを生み出せる唯一無二の存在だと思います。

営業という仕事【第11回】
営業という職種は実に得るものが大きく、誇り高い仕事だと思っています。ただ、最近はこの営業職が避けられがちな傾向があります。また海外、特にアメリカでは営業マンからデジタルマーケティングへの転換が加速しており、商品特性もありますが、対面販売よ...

では、上記の表を使用して販売プロセスの全体像を簡単に説明します。今後、それぞれのプロセスについて、掘り下げて詳しく投稿していきますのでご期待ください。また、過去の投稿にも参考になるものがたくさんありますので、是非検索してみて下さい。
『事業(経営)は顧客の創造』ドラッカーも言っているように、販売顧客を拡大していくことです。これには7つのプロセス4つの顧客リレーションが存在します。

7つのプロセスとは販売活動を顧客を発見するところから、契約に結びつけ製品を納品して、代金を回収するまでの時系列なプロセスです。もちろん会社によって若干のプロセスの違いもあるかもしれませんが、概ねこの7つのプロセスに従うと考えます。それぞれを説明しておきましょう。

1)市場認識プロセス

これは法人営業では最も重要なプロセスで、市場にどれくらいの潜在的な顧客がいるのかを認識するプロセスです。これをしっかりと認識することで販売戦略を正確に立てることができ、自社のリソースをどれくらい投入できるかの判断基準をつくることができます。
更に、このプロセスには対象の把握顧客の分母を最大限増やすフェイズ)と可能性の把握(その中から製品がいつ、どれくらい販売できるのかを絞り込むフェイズ)にわけることができます。
一般的にはこれらの情報を管理することをCRM(Customer Relationship Management)と呼ばれます。このCRM構築が、現在の法人営業成功のポイントになります。

2)情報提供・収集プロセス

これは市場認識で獲得した顧客との関係を育てていくプロセスとなります。法人営業の醍醐味であり、個人の技量の差で結果が大きく異なるプロセスです。また最近では、この技量の差をなくすため、様々なマニュアル化・教育が進んでいるプロセスでもあります。
このプロセスで重要なのは顧客に対して自社の情報を提供しながら、同時に顧客の情報を収集することです。顧客に深く入り込み、購入決定キーマンを探索するのですが、この購入決定キーマンを見誤ると、次のプロセスが全く見当違いの方向に進んで、結果を出すことができません。特に市場が成熟した業界においては顧客に点ではなく面で接する(アカウントマネジメント)が必要となります。アカウントマネジメントについてはいくつか過去の投稿がありますので興味がありましたら併せて確認してみて下さい。

アカウントマネジメント~法人営業の業態変革【第95回】
私のブログの記事の中で、最も流入数の多い検索ワードはアカウントマネジメントです。あまり聞かないワードなので、検索上位に来るのかもしれません。実際、私もこのワードを聞いた時は、私の会社の造語だと思っていたぐらい馴染みのない言葉でした。のち、...

3)課題探索・提案プロセス

上記2つのプロセスまでは主に関係性の構築です。ここから先はいよいよ顧客の課題を見つけてそれを解決に導く提案のプロセスとなります。プレゼンテーション見積書の提示などが具体的な作業になりますが、実際は『価値(コト)の取引』をしなければなりません。

営業マン
営業マン

この製品は原価が70万円だから100万円で価格提示しよう

社長
社長

うーん、買ってもいたいけど少し高いから10万円値引きしてよ

営業マン
営業マン

(そうだな、まだもうけはあるし)いいですよ。90万円にしましょう

ということで90万円で製品を販売し、20万円利益が上がりましたという話はあくまでも『製品(モノ)の取引』です。
法人営業が顧客と向かい合うときは『価値(コト)の取引』に心がけることです。一般的にはソリューションビジネスとも呼ばれます。この『価値(コト)の取引』『製品(モノ)の取引』と何が違うのでしょうか?一言で表すと取引が顧客から始まっているのか?それとも自社から始まっているのかの違いです。上のやりとりを『価値(コト)の取引』に置き換えると

営業マン
営業マン

この製品は貴社の生産を1年間で200万円増やすことができます。

社長
社長

なるほど、確かに。ってことは少なく考えても5年で400万円ぐらいは利益が増えそうだね

営業マン
営業マン

そうなんです。そこで今回、この製品を200万円でご提供したいのです

まぁ、できすぎなストーリーですが、『価値(コト)の取引』をしたことで、この場合200万円で製品が販売できました。実に130万円の利益です。『価値の取引』のすごいところは原価は関係なく、あくまでも顧客の価値観が販売価格(対価)です。つまり、価値を認めない顧客であれば50万円でも高いということになり取引も成立しません。顧客の課題をしっかりと見極め、顧客が価値を感じてもらえる提案を考えること(ソリューション営業)がこのプロセスのポイントです。

4)意思決定合意プロセス

さて、このプロセスはネゴシエーションです。先ほどの『価値(コト)の取引』により、製品価値を最大限に感じてもらえるよう販売価格(対価)を交渉していきます。良く『価値の取引』は販売価格でなく価値の対価と言われます。ネゴシエーションの際は、製品価値の根拠を提示し、お互いWinWinの関係でクロージングに近づけていきます。

5)納期・販売仕様の最終確認・与信プロセス(支払い条件)・・・4)と同時

意思決定合意プロセスとほぼ並行的に行わなければいけないのが、契約コンディションの確認です。製品の納期、合意した仕様など自社の各部門に関係する確認もさることながら、設置条件や支払い条件など顧客側に関係するの確認も必要となります。これらはしばしば納品後、大きな問題になる事項です。必ず、書面をもって双方で確認し、チェックリストやシステムを活用したヌケ漏れチェック機能も取り入れたいところです。

6)受注(契約)プロセス

法人営業が最も興奮する瞬間です。私もこの注文書をもらう瞬間は今でも気持ちが昂ります。いろいろな経験はしてきましたが、根が営業マンなんですね。このプロセスでは特に説明することはありませんが、特に納品までの時間が長い産業機械の場合顧客との温度差には要注意です。
営業マンはこの発注時が気持ちの最頂点なのですが、顧客の気持ちは注文時点にはあまりなく、やはり購入した製品の納品日だったり初稼働日だったりします。『釣った魚にエサはやらない』ではないですが、注文書をもらった瞬間から急に訪問しなくなるようなことは重々注意をする必要があります。

7)納品・アフターフォロープロセス

BtoB製造業(法人営業)にとって市場認識と並んで重要なのがこのアフターフォロープロセスでしょう。法人営業会社と会社が繋がるビジネスです。そのため、1回の取引に終わるのではなく、永続的に、またいろいろな製品の取引を続けていくことが必要不可欠です。納品した機械が性能通りパフォーマンスを発揮できるようにフォローし、次の取引の際にファーストコール企業(最初に連絡が入る)にならなければいけません。まさに『納品した機械が次の機械の注文を取る』といっても過言ではないのです。

4つの顧客リレーション

さて、前の項目では7つの販売プロセスについて簡単に説明してきましたが、ここでは人間関係構築に視点をおいた4つの顧客リレーションについて説明しておきます。話の内容としては決して難しい内容ではありませんが、実際に顧客に対して行うことは非常に難しいのです。

1)認知フェイズ

知らなかった顧客の存在を知るフェイズです。飛び込み営業、展示会で名刺をもらうなど、その顧客と接点を持ったという人間関係を認知のフェイズと呼びます。7つの販売プロセスでいうと市場認識プロセスの段階になります。このファーストコンタクトが失敗すると2度と面会できなくなるようなこともあります。ファーストコンタクトは顧客の興味を惹く内容を準備し、会って話がしたい、またはもう1回会ってみたいとも思わせる仕掛けが必要です。

2)受容フェイズ

ファーストコンタクトを終えて顧客の情報を積み上げるフェイズです。7つの販売プロセスでいうと情報提供・収集プロセスになります。定期的に訪問を繰り返し、顧客の様々なアカウントに接触することで顧客の情報を集めていくと同時に、その顧客に自分の存在を受容してもらうことです。まずは決定キーマンとアポイントが取れるようになり、また顧客のあらゆる部門長とも親しい間柄になることがこのフェイズでは最優先です。

3)課題の共有フェイズ

このフェイズは更に顧客に踏み込み、課題を相談されたり、質問に対して適切な提案をするフェイズです。7つの販売プロセスでいうと課題探索・提案/意思決定合意プロセスになります。すでに顧客に受容され課題を共有しながら、その顧客に入り込んでいるフェイズです。この状態になると『価値の取引(ソリューション提案)』が効果的に行えるようになります。

4)信頼フェイズ

このフェイズはその顧客にはなくてはならない存在になるということです。どんなことでもファーストコール(一番最初に相談される)存在となれば、商談が発生した際も競合になることがありません。またソリューション提案がしっかりと受け入れられるので、お互いWin-Winな取引ができるようになります。しかし、これらの4つのリレーションは1回の商談サイクルだけではなかなか築けません。この商談のサイクルを何回も回し、また途中営業担当者が変わったとしても、このフェイズが下がらないように全社対応で進めていくことが長期的な関係構築に重要なことになります。
優秀な営業マンほど、顧客を私物化します。これはリレーションを築く上では決して悪いことではありませんが企業としては大きなマイナスに繋がります。

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今回は営業時代の失敗事例2回目です。このネタは結構続けられそうですね、恥ずかしながら。。。1回目は自分の中で非常に勉強になった事例として紹介させて頂きましたが、今回は会社としての損失の大きかった失敗事例です。また、BtoB系の製造メーカー...

さて、久しぶりの投稿でしたが、結構筆が進んでしまいました。なんとなく書きたいことが溜まっていたので1年ぶりにも関わらず、短時間で書き上げられたような気がします。また本文中にも書きましたが、やはり根っこがセールスパーソンなので販売系の投稿は気合が入ります。今後も販売不振で困っているBtoB系製造業に向けた役立つ情報を投稿していきたいと思います。
では今回はこれまでです。また次回、ごきげんよう!
(そういえば『ごきげんよう!』で締めていたのすら忘れてましたね)

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