自社の製品が売れなくなった時に、新しい製品を生み出していくことが必要なことは過去の記事でも述べてきました。その際、ビジネスの仕組みを変えることを考えていかなければなりません。特にBtoB企業の中でも製造メーカーは自社の製品販売に偏り過ぎており、一度売ったらそれっきりというビジネスに慣れています。本当に重要なのは納品した製品で稼いでいくビジネスモデルの構築が何より大切です。これは決して簡単なことではありませんが、製造メーカーだからこそ、有利に進めるモデルが考えられるのではないかと思います。今回はその辺に触れてみたいと思います。
納品した製品から収益を上げる方法
リカーリング
成熟市場でビジネスを継続していくのであれば、現在の製品の品質やスペックを上げることだけでは、なかなか乗り切っていけません。お客様は『できれば購入したくない』という状況の中で製品を販売していくためには、販売の方法、つまりビジネスの仕組みを変えなければいけません。
そこで良く言われるのが、モノ売りからコト売りへの転換です。そこで考え方としては現在の製品(モノ)の販売から対価のもらい方(コト)に変えるという切り口で考えてみましょう。
比較的低額な製品を扱っているメーカーが古くから持っているビジネスモデルで、髭剃りの柄の部分と替刃を別々に販売し、柄の部分を無料で提供することで利用者を増やし、替刃の販売で永続的な利益を上げたジレット髭剃りの成功事例からジレットモデルとも言われています。比較的高額な製品本体を安く販売し、それに使用する消耗品で収益をあげる販売方式で、BtoC企業ではかなり常套手段となっています。最近ではウォーターサーバーとかオフィス用のレンタルコーヒーメーカーなどもこのモデルですね。そういえば、私が若いころの携帯電話(ガラケー)の端末などもこの種のモデルですね。
BtoBの企業では、これも企業名がそのままビジネスモデル名になっているのですが、XEROX社の複写機ビジネスです。これもXEROXモデルとかクリックチャージモデルと呼ばれています。複写機を比較的安価に(またはレンタル)提供し、1枚当たりいくらと課金していく販売方式で、この1枚をクリックチャージと言います。お客様は複写機が欲しいのではなく印刷物が欲しいと考え、印刷した分だけ料金を頂くシステムを考えた訳です。XEROXは複写機を販売することではなく、印刷物を売っていると考えても良いですね。お客様にとっても、必要な分だけ支払うといったことでメリットも大いにあり、まさにWin-Winの関係になります。ちなみにXEROX社はこの印刷に使用するトナー(粉末状のインキ)も供給しています。複写機は製造から半世紀経った今でも、このトナーは製造メーカーしか供給することができず、XEROX社はクリックチャージとトナー販売の両方で収益を上げている訳です。
さて、これに倣ってBtoB系の製造メーカーがリカーリングのビジネスモデルを成立させるためには製品側の開発と連携した商品企画が必要です。前述の複写機のように、印刷に一番必要なトナーが、販売メーカーにしか供給できないところにうま味があるのです。消耗品側に製品の機能を高める付加価値をどれだけ与えられるのかが成功のカギになります。通常だと30分かかる交換が自社の消耗品であれば5分で交換できるとか、残りが少なくなると警告が出るとか、使用するお客様にとって価格以上の価値を提供できれば永続的な収益(ストックビジネス化)を手にすることができます。
もちろん、これにはリスクも伴います。お客様にとって従来の消耗品の方が価値が高いと認識した場合や、競合が違う形のビジネスモデルを持ち出した場合は、本体製品そのものが選択されなくなるからです。実はXEROX社は現在、相当苦戦を強いられています。それは競合の複写機メーカーがクリックチャージとトナー料金が一緒になったビジネスモデルを提案してきているからです。また最近ではインキジェットプリンタメーカーであるEPSON社がクリックチャージ不要のビジネスモデルを展開しているので、XEROX社のビジネスモデルは明らかにランニングコストが高くなっています。お客様に利便性という付加価値をしっかりと意識させた上で、自社でしか供給できないストックビジネスを重ね合わせることが重要になります。
サブスクリプション
現在、世の中はサブスクリプション時代です。特にBtoCの世界ではソフトウェアから、なんと焼き肉店までサブスクリプションモデルを展開しています。もちろんサブスクリプションは定期購読のことなので新聞や雑誌、また購読ではありませんが牛乳などもそうですね。最近サブスクリプションモデルと呼んでいるビジネス形態は定額支払いサービスのことになります。馴染みのある商品でいうとNETFLIXやAmazonPrimeといった動画視聴サイトですね。月額料金を支払えば、そのサイトにある動画は見放題となり、従来DVDを購入したりダウンロードしたりすることを考えると、ほぼ1コンテンツぐらいで元が取れてしますので、非常に早いスピードで拡大しています。最近ではマンガサイトなどもその部類ですね。
BtoB企業でいうと、必ず成功事例として出るのがAdobe社のデザイナー向けソフトウェアのクラウドサービスですね。従来パッケージとして製品販売していたものを2012年よりクラウドでサービスを提供するようになり、一時期停滞していた売上がV字回復した事例です。
私もIllustlatorは8.0から、Photoshopは5.5から、Goliveもかなり初期のバージョンから利用しているAdobeユーザーだったので、ソフトウェアの頃の価格の高さには参っていました。(教育機関用のモデルでも10万円以上しましたし)またAdobe社以外でも、顧客管理クラウドであるSalesforce社、現在 SaaS(Software as a Service)企業として急成長している人事管理クラウドのHR社や名刺管理クラウドから事業から更に領域を拡大しているSansan社など、私の会社でもおなじみのソフトも全てサブスクリプションです。(しかも基本使用料とクライアントライセンスの2つで)
製造メーカー系では、なかなか好事例が上がってこないのですが、トヨタ自動車がKintoという車利用のサブスクリプションを始め、サブスクビジネスに参入したことなどがトピックとして挙げられますね。ちょっと私はカーリースとの違いがわからないのですが(乗り換え可能なのかな?)。
Adobe社のデータにつきましては、Live Computing様の『Adobeサブスク売上構成のからくり』からデータを引用させて頂きました。私もAdobeのソフトウェア時代(CS2)の利用者ですが、Creative Cloudの成功事例がクローズアップされている裏で、他の柱があったことがわかり勉強になりました。
製造メーカーのサブスクリプション
お客様がサブスクリプションに魅力を感じるのは、一定のお金を払えば『使い放題』になること、『好きなものにいつでも取り換えできること』、『本来高いものが安く使用できること』だと考えます。
ところが製造メーカーの製品は、既に使い放題だし、なかなか別の製品と交換することを求められません。唯一、提供できる価値は本来高いものを安く購入できることかもしれませんが、これは既にリース販売などで対応済です。
また、製造メーカーのサブスクリプション成功事例は、ほとんどが前述のリカーリングモデルです。GEのエンジン事業も、どちらかといえばリカーリングですし、コマツのKOMTRAXはインフラを提供し見える化と稼働の分析を行っていますが、課金がビジネスになっているようには見えません。両社ともIoTクラウドを活用したビジネスを展開していますが、サブスクモデルというにはややピンときませんね。そもそも未だにこの2社の事例がとり上げられていること自体、他に事例が少ないんでしょう。
この価値を提供できるのは高額な機械を販売している製造メーカーが所有から利用へサービスを切り替えることは簡単なことではありません。また洋服や動画配信とは違い、いろいろな機械をとっかえひっかえ使いたいというユーザーも少ないのでどういうサブスクリプションを作ったら良いのか悩むところです。
では製造メーカーのサブスクリプションは成立しないのでしょうか?ここでは私の会社が実行した2つのサブスクリプションの事例をご紹介したいと思います。
1)IoTクラウドによる『見える化』のサブスクリプション
2)製品保守のサブスクリプション
(1)はGEやコマツに見られる製品のさまざまな情報を自社のクラウドと接続して収集分析し、それをベースにお客様に便利な機能を提供することで、そのクラウド利用料をサブスク(月額課金)化する方法です。これは製品側に稼働状況やエラー情報、移動する製品であれば位置情報などをクラウドに送り出す機能が必要ですが、現在の製品はほとんどがPC端末で制御されており、比較的容易にインフラは構築できると考えます。このビジネスは収集した情報でどれだけお客様の価値を訴求できるかにかかっています。接続可能な製品の数にもよりますが、¥50,000~¥100,000の月額課金がもらえればベストなのではないでしょうか?
このサービスの良さはどんどん新しい価値を提供できることです。取得した情報から価値を考え、課金のオプション化を図れれば、かなり大きなビジネスにつながると思います。
(2)一部の製造メーカーでは既に実施しているビジネスですが、どちらかというと保険的な要素が強く、最近のサブスクビジネスの特徴であるCX(カスタマーエクスペリエンス)にはほど通りサブスクリプションです。
商業用の印刷版を出力する大日本スクリーンという会社は、この版を出力する装置であるCTP(Computer to Plate)という製品を販売する時に保守契約を結びます。これは機械が故障しても全て無償で修理をする契約で、まさにサブスクリプションです。実はこのCTPはほとんど故障しないのですが、お客様は必ず保守契約を結びます。それはこのCTPに使われているレーザーが極めて高額で、これが故障した場合、1000万以上の修理費用が掛かるため、このレーザーの保険として契約しているのが現状です。最近ではレーザーも安くなり、保守契約を結ばないお客様も増えているようですが、この保守契約というのは製造メーカーの大きな武器です。
今後、製造工場の技術スキルは高齢化や人不足に従って加速度的に落ちてきます。その時に製造メーカーによる定期的な保守契約が月々受けられれば、確実に契約数を伸ばしことも可能です。
保守と消耗品の組合せ商品や、クラウド使用料と保守の組み合わせなど、顧客価値最大、自社収益最大のWin-Winスキームを考えて展開すればBtoB企業系の製造メーカーでもサブスクモデルを手に入れることができると思います。
どうですか?今日は自社の事例も交えて製造メーカーのサブスク可能性を説明させて頂きました。もし、良いスキームができたら是非、逆に教えて下さいね。では、次回までごきげんよう!
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