販売部門のDX~ソリューションによる営業変革【第98回】

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QRコード営業論

さて、今回は久しぶりに営業関連をテーマにしたいと思います。なんといっても営業関連の投稿は毎回閲覧数が伸びます。
今から5年ぐらい前は営業のDXをテーマにしたセミナーがたくさん開催されていましたね。CRMSFA、またMAツールと呼ばれる営業向けのデジタルツールの導入事例を有名企業の担当さんが説明するセミナーに私も何回か参加したことがあります。私もそれがきっかけでクラウド型のSFAツールに惚れてSalesforce社のSFA導入に大きく貢献してしまったのですが。。。
最近はそれぞれのツールが機能を拡張し、BIツールなどとも結びついて、ツールの性格ががややわかりづらくなってきていますが、導入はしたものの、今一つ、うまく活用されていないという声も多く聞かれます。今回は販売部門のDXという大上段なタイトルをつけましたが、ツールを導入する前にやるべきこと、また何を目的にツールを導入するのか、などのヒントになる話をいつものとおり実体験の話を参考にして進めていきたいと思います。

販売部門のDXと製造部門のDX

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

まずはDX(デジタルトランスフォーメーション)についてしっかりと復習をしておきましょう。文字通りとらえると、Digital(デジタルの)Transformation(変容・変革)ということになり、デジタル化によって今の状態を変えることを意味しています。ですからそんなに難しいことを言っているわけではありません。簡単に言ってしまえば、今まで手書きで集計したものをEXCELに入力して処理するとか、スマホからAmazonで本を買うというのも立派なDXなのです。
ちなみに政府が示しているDXの定義で有名なものは2018年に提示された『DX推進ガイドライン』の一節だと思います。

デジタルトランスフォーメーション(DX)~『DX推進ガイドライン(2018年経産省)』

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革競争上の優位性を確立すること
https://www.boxsquare.jp/hubfs/resource/pdf/20181212004-1.pdf

私はこのガイドラインを『デジタルを活用して会社を変革させ、新しいことで稼いで下さい』と認識し、自身のセミナーなどでは、そのように説明しています。政府の非常に強い危機感を感じさせる文書ですよね。
特に『企業文化・風土を変革』って政府から指摘されるのは、かなり余計なお世話だと思うのですが、恐らくこれを定義したチームは、それぐらいの変革を起こさないと日本企業は時代に取り残されるといったことを思って表現しているのではないかと思ています。

販売部門のDX

販売部門のDXをお話する前に、もう1回DXの定義『デジタルを活用して会社を変革させ、新しいことで稼いで下さい』を整理しましょう。かなり荒い言い方になりますが『稼ぐ』ということは『販売価格-原価』の数字を大きくすることになります。(販管費などは今回はちょっと置いて考えて下さい)
そしてこの『稼ぐ』方法は原則下記の2点しかありません。それは『原価を下げる』か『販売価格を上げる』かになります。

販売のDXと生産のDX

DXへの投資はこの2つの『稼ぐ』DXによって実現するのですが、取り組み方が正反対になると考えています。原価を下げるDXは、主に生産部門に対しての投資であり、私はこれを『ロボティクスによる製造変革のDX』と呼んでいます。
これに対して販売価格を上げるDXは主に販売・企画部門に対しての投資であり、私はこれを『ソリューションによる販売変革のDX』としています。いずれも私の造語ですが、うまくまとまっていると思っています。また、前者のDX変革の主役はロボットになりますし、後者の主役はまさにとなります。
生産現場は今後、ますます労働力を確保できない状況に陥ります。そのためには生産プロセスの連結・整流化・無人化は避けて通れません。それを実現するアイテムはロボットに他ならないのです。製造変革のDXについては今回、説明しませんが、近いうちに別テーマとして取り上げたいと思っています。一応、過去に似たような投稿がありましたのでリンクだけを貼っておきます。(初歩の製造業DX【第51回】

初歩の製造業DX【第51回】
さぁ、新しい気持ちで51回目の投稿にいきたいと思います。今回はなかなか言葉が先行し、実際に土何のことなのかよくわからないDX(デジタルトランスフォーメーション)について取り上げたいと思います。ちょうどリアルなセミナーでも、この題材で講演す...

製造変革のDXD(Digital)⇒ X(Transformation)の順番で行われます。まずはデジタル化の推進がスタートとなります。IoTの技術を活用(Digital)して徹底的な生産プロセスの見える化を実施すします。その見えたデータ(アベレージ)から工程のボトルネックを見つけて出して解消することで、生産数が最大になるように自動化・省力化・無人(ロボット)化に変容(Transformation)を促していきます。

逆に販売変革のDXX(Transformation)⇒ D(Digital)の順番で行われます。販売変革のDX人が主役ですから、まず販売する組織変わることが優先なのです。

ソリューションによる営業変革のDX

ソリューション営業とは

私は営業マン時代が長かったので営業という仕事に対する思い入れは非常に強いものがあります。そのため営業の投稿については、他のものよりも熱く語ってしまいます。
私は営業という職種は極めて『誇り高い職種』だと思っています。お客様と対等な立場で交渉できるのは会社の中では営業マンしかいないからです。しかし、その一方、営業ほど教育体制や組織が体系化していない職種はありません。これは営業という仕事が個人の性格や資質に大きく影響されていることや、交渉先のお客様の反応も千差万別でマニュアル化が難しいことに起因していると思います。
営業マンの教育というと、だいたいOJT教育が主体であり、そのため教育する側も自分の経験した事象からしか伝えることができないので、内容が断片的で個人差があり、その教育する人以上に育たないといった状況が一般的です。また組織体制も、そのほとんどがエリアごとに担当を機械的に設置し、営業企画部門は企画とは名ばかりでカタログ作成や展示会の運営のみを行うバックオフィスに専念したような組織体制になっています。
販売のDXを行う時は、こういった過去の営業の習慣や体制を変容させる(transformation)ことがまず必要で、この変容が、ソリューション営業(組織)なのです。

ソリューション営業という言葉は最近ではだいぶ浸透してきました。顧客が起点となり、顧客の課題を解決(ソリューション)する販売手法の全般を言いますが、これも私がセミナーなどで説明するときは『買う気のないお客様に買ってもらう営業』というように言っています。
このソリューション営業を実行するためには、営業用のデジタルツールを導入する前に、まず営業マンの意識組織体制変容(Transformation)する必要があります。この変容とは属人的なスキルや個人の持つ情報組織構造システムに置き換えていくということです。ではソリューション営業変容するためポイントを見ていきましょう。

1.顧客(市場)の選別と面接触(アカウントマネジメント)

成熟したマーケットでは、購買力のある会社は徐々に限られてきます。自社が永続的に収益を上げていくためには優良なお客様を見極めてWin-Winの関係を築いていくことが先決となります。その関係を構築するためには、お客様のあらゆる部門と関わりを持ち、いろいろな部署から課題を探し続けることが重要になります。これをファーストコールカスタマーといい、何か問題があった時に『まずこの人(会社)に聞いてみよう!』という関係を築くことです。
この際に良く採用される組織体制優良顧客だけを全国的に対応する部門や担当者の設置です。私の会社ではアカウントマネージャーとかアカウントマネジメント活動と呼び、通常の地域エリア担当とは別に重要ユーザーを全国横断的に担当します。
エリアの営業担当は目先の売上数字を上げなければならないので、顕在化した商談を追いかけますし、これはそうでなくてはなりません。
それに対してアカウントマネージャーは営業担当とは別に、商談を追うのではなく長期的に自社の製品戦略を伝えたり、逆に業界の優良企業から課題やトレンドを収集することがメインの役割となります。つまり、顧客の課題を確認し、解決しながら、自社のマーケットリサーチの機能も果たします。
これらの優良なお客様の課題を一緒になって解決した製品が次の自社の製品につながります。これらの優良なお客様リファレンスカスタマー(影響力のある宣伝的役割を果たすユーザー)となることで、お客様は課題が解決され、自社は製品販促が推進されるという文字通りWin-Winの関係が構築できるわけです。概ね優良なお客様の課題は、一般のお客様も感じている課題であることが多く、このアカウントマネジメント活動における課題解決によって生まれた製品はヒット商品に繋がる可能性も非常に大きいのです。

2.製品(提案)数の拡大・・・アップセル/クロスセル

現在、お客様の要求は非常に多岐に細かくなっており、それに対応する製品数は膨大になっています。BtoB製造業でも多品種変量生産を余儀なくされ、それが収益を圧迫しているのです。アカウントマネジメント活動優良なお客様とのWin-Winの関係を築いていく活動ですが、具体的に提案する製品がなければ売上は拡大していきませんし、もちろん提案のしようがありません。
そのため、次に考えな考えなければいけないことは製品(提案)数を拡大していくことです。これは販売サイドだけでできることではありませんが、営業部門や営業企画部門がアカウントマネージャーを加えてどんな製品がヒットするのかをマーケティングのルール(STP/4P)に従って分析し、迅速な製品化をしていくことです。
ここで間違えてはいけないのは横に製品を増やすのではなく、縦に増やしていくことです。成熟マーケットにおいて1つの製品にラインナップを増やしていくのは生産の面からみても得策ではありません。製品を投入する市場や、製品そのもののスペックは極限まで絞るべきです。これは自社が最も強みを発揮できる市場に1スペックの製品を迅速に投入することを意味し、現在の細分化されたマーケット要求に対応する手段となります。
縦の製品拡大とは、投入する1スペックの製品に対するアップセル・クロスセルを増やしていくことです。その製品に連結する付属機器だとか、消耗品や資材検査や点検といった保守サービス修理保険など製品に付随するサービスを多数ラインアップしていくことです。BtoCにおけるカスタマーエクスペアリアンスをお客様に感じ取ってもらえれば、更にコンサルタント人材派遣などのビジネスにもつながっていくでしょう。

従来の営業とソリューション営業

3.営業企画部門(インサイドセールス部門)の設置

優良なお客様の選別は販売のやり方の変容提供サービスの拡大は開発の方向性の変容です。3つ目は組織体制の変容となります。
ソリューション営業を円滑に行うためには販売部門とそれを支える営業企画部門との連携が重要になります。営業マンの主業務は販売することです。販売部門は可能な限り販売活動に注力できるように、営業企画部門最大限の支援をする必要があります。アカウントマネージャー営業マンの情報から商品企画書を作成し、要求する製品を調達したり、生産部門へ要請したりすることだったり、営業マン誰でも格差なく販売ができるような支援、具体的に言うと、見込み先ユーザーの絞り込み、対象リスト作成、並びに販促資料の準備、販売員向け勉強会の開催など、営業部門のバックアップができる組織になる必要があります。
この際に必要となるのがCRMSFAといった営業支援デジタルツールです。営業マンが日々取得する顧客や市場の情報を個人のものとせず、社内で共有するにはどうしてもデジタル(システム)の力を借りなければなりません。これらのデジタルツールを活用して営業の暗黙知を形式知化していくことも営業企画部門の大事な役割となります。

営業向けのデジタルツール

さて、最後はテーマが販売部門のDXですからD(Digital)の部分になる営業向けのデジタルツールについて簡単に説明しておきましょう。今ではクラウドを活用したツールが当たり前になっていますが、クラウド型のメリットは『いつでも、どこでも、だれでも』活用できる点です。
今回はCRMSFAのみ定義を解説しますが、前の項でも触れたとおり、それぞれのツールが機能を大幅に拡張しており、最近では違いが分かりづらくなっています。

□CRM(カスタマーリレーションマネジメント)ツール
CRMツール顧客データベースです。古くは担当各々が手書きで作成し持っていた顧客情報が、次第にEXCELシートなどでデジタル化されてきた過程があります。この時点ですでにデジタル化しているわけですね。修正液と格闘することなくデータの更新が速やかにできるようになっただけでも非常に効率が上がりました。
当然、これでは顧客データ全社で共有されているわけではなく、まだ個人の持ち物です。このデータを1つのサーバーで管理したものがCRMツールです。CRMツールのメリットは個人が持っていた顧客情報の全社共有ワンソースマルチユースです。名刺管理ツールなどと連携していると異事業所間で顧客の情報が共有され、思わぬリレーションのつながりが発生したりします。最近はオンプレミス型(自社サーバー運用)ではなく、クラウド型のものが増えていますが重要な機能は変わりません。

□SFA(セールスフォースオートメーション)
SFAツール営業活動管理のためのツールです。主な機能は日報機能(行動管理)案件管理です。これも私が入社したころは手書きで毎日書いていましたね。それこそ誰が見るわけでもない、フィードバックをくれるわけでもない日報や週報を自分の思い出のために書いていました。。。
SFAツールCRMツール同様、全部門での情報共有が大きな目的です。上司だけでなく全部門との営業活動の共有ができ、また双方向に情報を交換ができるので、困った時のアドバイスなどをリアルタイムで受け取ることも可能です。また商談案件の進捗状況見える化するので今月、どれくらいの売上がいくのか、注力する商談はどの商談なのかが会議をしなくても確認できます。
もちろん蓄積されたさまざまなデータを分析することで個人別に訪問効率や成約率を高める方法を知ることができたり、また訪問件数や成約率で営業マンの評価などにも利用できます。まさにシングルインプットマルチアウトプットですね。
SFAツール商談の案件管理が最もメインの役割となりますが、案件の確度合わせを統一しておかないと正確な案件の見える化ができなくなります。慎重な営業マンはなかなか確度を高めないとか、若手の営業マンはすぐ確度を高めてしまうなど、商談の確度にムラが出ないように販売部門内でしっかりと確度合わせをしていくことが重要です。

販売部門のDX製造部門のDXと違って、個人が持っている暗黙知を会社の財産にして共有していくことが大きな目的です。特にクラウド型はアカウント数に応じた料金体系なのでデータがせっかく共有できる状態になっていてもアカウントが無くて見れないなどの問題が発生します。
『何を目的にして、だれが使用するのか』要件をしっかりと定めて導入しないと際限なくお金のかかるものになるので注意して下さい。
営業のCRMSFAについては過去に投稿したことがありますので、こちらも是非、参考にしてみて下さい。(『CRMとSFA【第33回】』

CRMとSFA【第33回】
顧客情報(リスト)無しで販売活動をするということは地図を持たずに知らない土地を旅するようなものです。私が入社したころは、まだPC(オフコンと呼んでいましたが)もフロアに1~2台しかなく、ユーザー管理も納品台帳からドットプリンタで印字したも...

今回はいかがでしたでしょうか?
さて、いよいよ100回が見えてきました。もう少し早く100回目になるかと思っていましたが、どうにも忙しく、最近は月に1~2回の投稿に甘んじています。まぁ、本業が忙しいことに越したことはないですが、今後は Youtubeにも挑戦をしようと思っています。引き続きいろいろなご感想などを頂けると幸いです。
では、また次回、ごきげんよう!

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