BtoB系製造業変革の切り札~ソリューションビジネス【第94回】

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矢印ソリューションビジネス

ちょっと前半の記事のリライトをしていて、最近ソリューションビジネスについてほとんど投稿していないことに気がつきました。もちろん、ソリューションビジネスをメインテーマにはしていませんが、私の投稿のベースはほとんどソリューションビジネスが軸になっています。
強い組織を作るのも、販売を拡大するのも、新規事業を開発するのもソリューションビジネスの考え方が原点です。今回は、この重要なソリューションビジネスの本質について説明し、少し以前の投稿を思い出しながら再録していきたいと思います。
記念すべき第一回目の投稿『ソリューションビジネスって何だ?【第1回】』も私のプロフィールを知るついでに読んでいただけたら幸いです。

ソリューションビジネスって何だ?【第1回】
バブルも終わりかけた1991年の入社以来20年ちょっと、ずっと営業一筋で勤務していました。自分の将来について強いビジョンがあった訳ではないのですが、それなりにお客様とのリレーションも築けていましたし、営業成績も残せていたので、恐らくこのま...

ソリューションビジネスとは

製造業のソリューションビジネス

営業一筋だった私が、企画部門の道に転身したきっかけが、まさにこのソリューションビジネスとの出会いでした。詳細は過去の記事に譲りますが、10年前に新設されたソリューションビジネス推進部に異動し、このソリューションビジネスと格闘し『私の会社にとってのソリューションとはいったい何なのか?』を考え続けました。
実際にソリューションビジネスに定義などはなく、ネットで検索しても『顧客の課題を解決するビジネス』とざっくり書かれています。そして、その後には『プロダクトアウトではなく、マーケットインの考え方』とか『モノ売りからコト売りへの変化』などということが語られるのです。もちろん、これらはソリューションビジネスを考える上で重要なことは間違いありません。
そもそも、製造業、特にBtoB系製造業ソリューションビジネスが重要と言われ始めたのは、ここ15年ぐらい、リーマンショック前後の話だと思います。それまでの製造業は製品を作れば、ある程度売れるという、開発/製造と販売部門で経営が行われている状況でした。製品が売れなくなれば、開発は新しい製品・機能を増やし、製造部は生産性を高めてコストを圧縮し、また営業は新しい市場を開拓していけば事業を維持・拡大できたのです。
しかし、この時期からアジアで安く、そして品質もそこそこの製品が世界を席巻するようになります。当初は単純な製品だけでしたが、次第に家電から複雑な工業製品まで、次々と日本製品が置き換えられるようになりました。また同時期に起きたリーマンショックはメイン市場であった日本国内における顧客の購買意欲を奪い、これがBtoB系製造業に更に追い打ちをかけたわけです。
こうなってしまうと、開発がいくら新しい製品や機能を追加しても、すぐ追いつかれてしまいます。また製造の生産性は極限まで来ており、これ以上のコストダウンは見込めなくなります。営業も既にほとんどの市場に拡大しており、開拓するどころか、守るだけで手一杯になってしまいます。
そこで登場するのがソリューションビジネスであり、それを行うのが一般的には『営業企画』『販売推進』と呼ばれる部門です。私が営業から異動した時の『ソリューションビジネス推進部』とは、まさに箱だけが出来上がった空っぽなソリューション部門でした。

ソリューションビジネスの失敗例と解決策

このような形でソリューション部門(営業企画、販売推進など)ができあがると、ほとんど機能しないどころか、社内全体にも悪影響を及ぼします。
ソリューション(顧客課題の解決)といった言葉に踊らされ、まずソリューション部門本体は役に立たないプレゼン資料の整理や市場調査をするようになります。そもそも顧客のことを最も知っているのは営業部門ですから、ソリューション部門が市場調査をやっても本当の課題(ニーズ)を見つけることは極めて難しいのです。結果の出せないわりに社内で重要視されるソリューション部門は営業部門から邪魔にされ、馬鹿にされ次第に両部門の溝が広がっていきます
また営業部門は『顧客志向』の旗印のもと、お客様のわがままな要求に対して『顧客課題の解決』とばかりにほとんど数量が出なそうな製品の開発要求を上申するようになります。営業は売上が全てですから、開発した製品が1個しか売れなくても、自分の数字さえ上がればお構いなしです。
更に開発部門は、営業からのわがままな要求に対応することで身動きが取れなくなります。ソリューション部門からも市場の正しい課題を受け取ることができず、機能不全になります。本来であれば既存の製品の負荷を最大限減らし新しい製品の開発に注力しなければならない開発部門が止まってしまうことは製造業にとっても最も避けなければいけないことなのです。

私のソリューションビジネス推進部の1年目はこんな感じで終わりました。『私の会社にとってのソリューションとはいったい何なのか?』と新しい製品開発を軸に考えすぎてしまったのかもしれません。
ソリューションビジネスだろうが、いままでのビジネスであろうが、その本質は売上(利益)を上げることです。P.ドラッカーの言葉を借りれば成果を出すことです。(ドラッカーは収益だけが成果とは言っていませんが)これは何を言っているのかというとソリューション部門の目標は営業部門の目標と同じになるということです。この両部門に溝があったり、コミュニケーションが悪いのであれば、まずは一緒にしてしまうのが一番です。この両部門の目標を同じにすることで両部門が協力して進められるようになります。でなければソリューションビジネスは絶対に実現しません。
私も他の投稿で、この協力体制を築くためにソリューション部門にはトップ営業マンを連れてくる必要があると書いています。これは大事なことなのですが、一人来た程度ではそうそう、うまく機能しません。むしろ営業側の営業力の低下につながってしまいます。同じ目標、同じ責任を持つことで組織に一体感が出て、自然と両部門の役割がはっきりしてくるものです。
ちなみに過去の投稿でソリューション部門の組織について説明している投稿がありますのでリンクしておきます。若干、矛盾しているかもしれませんが過去の投稿ということでお許しを。
『製造メーカーがソリューションを実行するための組織の作り方【第17回】』

製造メーカーがソリューションを実行するための組織【第17回】
さてソリューションビジネスについては、これまでに何回かとり上げ、ソリューションビジネスの本質や、具体的なソリューションビジネスの事例、また販売部門の立場からソリューション営業とは何なのか?などについて解説してきました。ではソリューションビ...

ソリューションビジネスの本質

では、ソリューションビジネスの本質とは何でしょう。ここからは私の完全な持論なので、教科書的ではありませんが、私はその本質を以下のように考えています。

『購入意思のないお客様購入する気にさせるビジネス』

従来のビジネスは購入意思のあるお客様に対し、既存の製品との違いや価格の話をしたり、競合との差別化ポイントを説明して自社の製品を購入してもらっていました。しかし、今は『できることなら購入したくない』というマーケットになっているのです。なので売りために『あの手この手を考えなければならない』ということです。この『あの手この手』ソリューションビジネスで、考える人ソリューション部門のメンバーです。
さて、購入する意思のない人(顧客)に売るにはどうすればいいのでしょう?ここから大事なのがマーケティング思考です。

マーケットインの思考(市場を細分化せよ)

ここまでの説明でプロダクトアウト、つまり自社の製品性能を高めていく、または生産性を高めてコスト削減するような考え方では収益(売上・利益)を確保できないことは理解できていますね。
つまり市場の要求をしっかりととらえた製品を作らなければいけないということになります。これがマーケットインの思考なのですが、だからといって営業が『お客様がこんな製品を欲しがっているから』という要求ばかりを受け、年間1個か2個ぐらいしか売れない製品をたくさんラインナップしていたら会社が疲弊するだけです。(Bto C企業の場合、このようなロングテールに特化して収益を上げている会社もありますが)
マーケットインの思考で大事なのは、まず市場を細分化していくことです。顧客の要求(ニーズ)から入るのであれば、顧客の要求をとにかく細分化していくことです。
例えば複合機(コピー機)の販売をしているのであれば、全てのユーザーが、スピードや品質を求めているわけではないと思います。しかも、この切り口(スピードや品質)では他社との差別化もできず、従って顧客の購買意欲を高めることができません。
そこで『あの手この手』を考える仕事がソリューション部門(企画部門)の仕事になります。
顧客の要求をいろいろな角度で細分化していきます。印刷物という切り口細分化すると、A4のコピー用紙に印刷するだけではなく、封筒へ印刷、長い横断幕のような印刷、ハガキのような厚紙印刷など顧客要求が更に細分化されていきます。そのような細分化された要求の中で最も市場が大きいと見込めるところ、または自社製品が最も効率よく勝てるところを見つけ出し、その市場に対して製品を集中的に投入し、販促を仕掛けていくことで、あるセグメントのお客様の購買意欲を高めることができ、販売の拡大に寄与していきます。これらの狭いセグメントのお客様は価格よりも自分たちのニーズ対応(課題解決)が購買のポイントになるので、収益率も非常に高くなる傾向があります。
この場合、お分かりの通り100件のお客様がいれば100件のお客様全てが対象になるわけではないので市場は小さくなりますが、顧客要求を細分化することであるセグメントの顧客の購買意欲を高め、その市場において大きなシェアと利益をとることができます。文字通り『購入意思のないお客様を購入する気にさせる』ことができるのです。

また、自社の製品の技術的な強みが『どんなものにも印刷が可能なインキ技術をもっていること』だった場合、プラスチック印刷といった新しいマーケットを創り出し、その価値に反応したお客様に対して独占的に地位を築くことも、市場を細分化するメリットです。これは、先ほどの顧客要求(ニーズ)に対して、自社の技術的な強み(シーズ)からのソリューション展開となります。
製品が余っているマーケットで戦うためには、さまざまな切り口で市場をとらえ、市場を細分化した上で、最も効率の良い市場を狙っていく戦略が極めて有効です。太平洋で魚を捕ることを考えないで、駿河湾で魚を捕ることに注力する戦略がソリューション部門大事な思考となります。

モノ売りからコト売り~売り方の視点を変える

一般的にモノ売りからコト売りというと製品販売(モノ)でなく、製品に付随するリカーリングサービス(コト)などを収益に結びつけていかなければならないと考えてしまいがちですが、BtoB系製造業が、そのようなビジネスを簡単には思いつきません。
だいたい、この手の本を読むと、AmazonやAppleの成功事例が出てくるので、ついつい、このサブスクリプションのサクセスストーリーに引っ張られてしまうのですが、ここでのコト売りモノ売りは製品の売り込み方の視点を変えるということです。
先ほど同様、複合機(コピー機)の販売をしているとすると、販売する側の立場では『スピード』『コピー品質の高さ』などが製品のキャッチコピーになりますね。おそらく自社のカタログにも営業マンのセールストークにも、この2つのアピールポイントがたくさん書かれたり、語られたりするのでしょう。これがまさに『モノ売り』になります。
本当に複合機(コピー機)を使うユーザーはスピードや品質を意識しているでしょうか?1分間に80枚出力できるたものが、85枚出力できるようになったからといって便利さを感じるでしょうか?
むしろ、紙が詰まった時にガイダンスや電話サポートをしてくれる、無駄なコピーを削減する2段階認証機能がある、個人別や部署別にコピーの使用量が見える化される方がユーザーにとってはるかに魅力的です。
お客様のコピー機に対する要求は『日々の業務を快適に無駄なく行いたい』なのです。ここに訴求したソリューション『モノ売り』になるわけです。
そして、今上記にかいたような顧客の要求、つまり付随サービスを提供するのに最も適したものが、たまたま月額課金(リカーリングやサブスク)ということなのです。
『ドリルを売るなら穴を売れ』の発想を、自社の製品やお客様の要求と照らし合わせ、リカーリングビジネスを考える前に、まず『モノ売り』の思考を身につけ、売り方の視点を変更することが重要です。

最後に花粉症の時期、いまでは有名ブランドになった王子ネピアの『鼻セレブ』。販売当初は『モイスチャーティシュ』という商品名で販売されていたのですが、使用ユーザーの評価のわりに販売数が伸びませんでした。
そこで商品そのものは変更せず、ネーミング(鼻セレブ)とパッケージデザイン(ウサギやアザラシの赤ちゃん)を変更したところ、20倍にせまる売上増の大ヒット商品に生まれ変わりました。
これはマーケティングの成功事例で良く使われますが『モノ売り』のヒントも隠されていると思います。花粉症や鼻かぜをひきやすいお客様は『モイスチャー』という単語には反応しなかったのですが『鼻セレブ』という単語には反応したのです。これは『何回拭いてると鼻の下が痛くてたまらん』という顧客の悩みに『鼻セレブ』というネーミングやふわふわとした小動物のパッケージがジャストミートした好例だと思います。

さて、今回はいかがでしたでしょうか?過去の記事をリライトするより、新しい今現在の考えを投稿した方が早いと思い、短時間で書き上げてみました。内容的には、かなり持論を展開しているところが多く、教科書的には『間違っているんじゃないか』と指摘されそうですが、もとより、ソリューションビジネスに定義などありません。
今回は私なりにBtoB系製造業ソリューション部門(企画部門)を立ち上げていく上での注意点や考え方を実践経験からまとめさせて頂きました。冒頭にも書きましたが、これまでの93回の投稿のほとんどが、このソリューションビジネスをベースに展開しています。今後も、リライト代わりの再録をアップしていきたいと思いますので宜しくお願い致します。
では、今回はこれまでです。また次回、ごきげんよう!

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