私のブログの記事の中で、最も流入数の多い検索ワードはアカウントマネジメントです。あまり聞かないワードなので、検索上位に来るのかもしれません。実際、私もこのワードを聞いた時は、私の会社の造語だと思っていたぐらい馴染みのない言葉でした。
のち、私は社内にむけて、この『アカウントマネジメント活動推進』という役割を果たすことになるのですが、この活動の重要性を理解してもらうことに非常に苦労をしました。もちろん、全て独自の認識で展開、体系化をしていったので世の中でいう模範解答ではないかもしれませんが、最近、再度いろいろなサイトや動画を確認しても、概ね概念としては間違いはなさそうなので、今回はアカウントマネジメントについて再録させて頂きます。
アカウントマネジメントとは
アカウントマネジメントとは
アカウントマネジメントとはどういうものをいうのでしょうか?まずはアカウントについて解説しましょう。アカウントとは顧客(お客様)のことを指しますが、単純に顧客を指す言葉だとユーザーとかクライアントなどとも呼びますね。特に法人営業においてアカウントというとユーザーの中のいろいろな部門にいるキーマンそれぞれを指すことが多いです。
特に大規模なユーザーだと、社長だけではなく、いろいろな部署に意思決定のキーマンがいます。また意思決定権者だけではなくユーザーの真の課題をヒアリングしたり、社内の人間関係をリサーチしたりする際の情報収集者も重要なキーマンです。
アカウントマネジメント(活動)は、このそれぞれのアカウントと強い関係性を構築(面接触)し、長期的に売上を計上しながら、顧客の満足度を維持していく活動となります。
このように顧客とアカウント単位で連携していると、ある事業所(アカウント)に対してXという製品で取引しているチームがあったとします。いろいろなアカウントに対して繋がりをもっていると、実はこの顧客の別の事業所にYという製品を売り込んでいるチームがあることが共有されるようになります。これにより、既にX製品で取引があったチームのリレーションを最大限に活用して新しいビジネスチャンスを生み出すようなことにもつながってくるのです。名刺の社内管理ソフトのCMで『それ、早くいってよぉ』という場面ですね。
そこで、まずアカウントマネジメントの1つ目のポイントは『顧客(お客様)をあらゆる角度から知る(顧客関係強化)』ということになります。顧客との接点が多くなれば情報が集まってきます。そうすることにより顧客課題が正確につかめるようになり、顧客と共通認識のもとで商談が進められるようになるわけです。
なぜアカウントマネジメントが必要か?
現在の世の中は、製品が売れて売れてしようがない、という場面は極めて少なくなっています。特にBtoB系製造業において販売量は急速にシュリンクしており、また販売先においても非常に限定されつつあります。
販売先である顧客(お客様)側もそれなりの規模や付加価値の高い会社しか生き残れなくなるわけですから、そのような優良な顧客(お客様)としっかりと関係を構築し、長期間に渡って取引を継続していく必要があります。
しかし、顧客の数が減っている事実がある以上、どれだけ優良な顧客を確保しても、それだけでは収益が次第に落ちてしまいます。そのため優良な顧客と関係を強化していく中で、その会社の中にある『さまざまな課題を発見し、それに対していろいろな製品を提案、購入してもらう』ことがアカウントマネジメントの2つ目のポイントです。
これを実現するためには、さまざまな課題に対応するための商品数を増やしていかなけばなりません。新しい製品を迅速に企画し、迅速に商品化する仕組みが必要になります。これが前回の投稿で説明をしたソリューション部門(企画部門)の役割となります。一応、前回の投稿(『BtoB系製造業変革の切り札~ソリューションビジネス【第94回】』)のリンクも下記に貼っておきますので興味のある方はそちらから読んでみて下さい。
製造業の新製品開発
モデルアカウントの選定
さて商品拡大の方法ですが、BtoB系製造業は私の会社もそうでしたが、商品化までのスピードが極めて遅いのです。この理由は主に2つですが、一つは意思決定権者が少ないこと、つまり多層に渡る承認組織になっているということ。そしてもう一つは愚直なまでの品質保証です。
大体のBtoB系製造業は、年に一度の大きな見本市で、主に競合製品の調査が行われ、商品企画、設計、試作評価、製造の各工程で多大な時間とお金を使い、そのため途中からその製品をローンチすることが目的となって、顧客置き去りのマーケティングが行われてしまいます。
最近は市場の変化が、相当早くなっているので、製品販売までに時間を掛けてしまうと、当初の計画と市場要求にズレが生じ、ビジネスチャンスを失ってしまうことも多くなってしまいます。こういう点において中国企業は、ローンチスピードから撤収までが非常に迅速ですね。
上記の事例は、まず商品企画が顧客でなく競合になっていないことが問題です。製品コンセプトが顧客課題から始まっていないと、その商品は絶対に売れません。
良くアジャイル的にという言葉が使われますが、まさに顧客課題を解消することと製品開発を同時に進めていくことが新製品開発のスピードアップに欠かせない要素だと思います。私も営業時代からいくつかのヒット製品に関わりましたが、ほとんどがこのパターンでした。ただ、残念ながらその当時は『お客様からの圧力と、なんとか売りたいという利己的な意識』からたまたま偶然、うまくいったという感じでしたが。
わたしの会社ではこういったアカウントをモデルアカウント(またはモデルユーザー)と呼んでいました。このモデルアカウントの選定が新製品の開発スピード並び、にその後の販売量に大きな影響を与えますので慎重な選択が重要です。そのポイントは以下の通りです。
このようなモデルアカウントと膝詰めで製品を開発することでマーケットインの発想で製品開発ができ、また問題点の検証をユーザー側で行うことができるので商品化までのスピードを高めることができます。
また、販売開始前に既に実績が作れるため、販促活動もよりリアルに行え、意思決定のために実績を重視するBtoB系の顧客には非常に有効なマーケティング戦略が可能となります。
このように良いモデルアカウントを選出し、商品企画、開発(設計・製造)、マーケティングのサイクルをどれくらい早く回すことができるかが勝負です。新商品の企画に100発100中はありえません。せいぜい5~10%ぐらいがいいところじゃないかと思います。実務者は失敗を恐れず、また管理者はトライアンドエラーを許す度量を持って進めていくことです。
製品の拡大方法
BtoB系製造業の製品拡大は3つの切り口があります。もちろん、M&Aなどによって、全く違う製品を扱っていくことも可能ですが、基本は現在の事業から少し外して考えていくことです。
1)自社製品の前後工程の機械
生産財を扱っている会社であれば、自社製品の前後の工程を担っている製品をセットで取り扱うという拡大策が考えられます。これであれば対象顧客もそれほど変わらないし、販売部隊もサービスサポート部隊も馴染みがあるので、比較的スムーズにスタートできます。業務提携、代理店販売契約、OEMや状況によってはM&Aなどという方法もあります。お客様に対する課題解決策も幅が広くなりますし、最も取組みやすい新商品開発だと思います。
2)消耗品販売(ストックビジネス)
ストックビジネスの良さは文字通り、毎日、毎月安定した売上と収益を上げることができることです。ます。自社機械の消耗パーツはもちろん、生産時に使用されるサプライ品(洗浄剤やオイル、フィルター類)などは一度契約すると積み重ねで基礎数字ができる商品のため、強い商品ポートフォリオが作れることになります。最も成功している事例がコピー機のトナーなどですね。
ところが前述のトナーのように機種に依存するサプライ品は意外と少なく、このビジネスはコンペチターが非常に多いこと、そして差別化要素が少なく、収益性があまり良くないのが問題点です。そのためなるべく人手をかけないシステム作りが重要になります。また離脱を防止するサブスクリプション契約なども有効な手段になります。
3)既存製品のリニューアル・アップグレード(アフターセールスサービス)
製品が売れていたころは、サービスというと製品販売のおまけであり、製品が故障した際に迅速に駆けつけて復旧する業務、つまりアフターサービスです。これとは別に納入した機械からどんどん売上を上げていくものに、アフターセールス(サービス)があります。
アフターセールスの魅力は、当たり前の話ですが、販売の対象が多いということです。BtoB系製造業であれば、その年度に売れる台数よりも市場に納品済みの製品の台数は圧倒的にに多いはずです。耐用年数の長い製品になればなるほど、既存の製品の数は多くなりますし、それだけでもアフターセールスにはビジネスの対象が存在します。
そしてもう一つは、原則的に競合がいないということです。これは販売側の人間とっては夢のような話です。つまり、勝てる相手とだけ勝負(売り込み)をすればよいのです。勝てない相手は放っておいても、新規商談のように他社にとられてしまうことはないのです。
サービス部門は修理履歴を蓄積していますので、そのようなデータを活用し、壊れやすいところのリニューアルや、最新オプションの追加などといったアップグレードの商品を企画し、ターゲット(勝てる相手)に販売していけば非常に大きなビジネスチャンスに繋がります。
本件については、過去の投稿『取扱製品の拡大方法(1)(2)【第9回・10回】』と2回にわたって詳しく解説をしていますので、そちらを参考にして下さい。
アカウントマネージャー
そして、ここまで述べてきた2つの重要ポイント
『顧客(お客様)をあらゆる角度から知る(顧客関係強化)』
『さまざまな課題を発見し、それに対していろいろな製品を提案、購入してもらう』
を組織的に取り組んでいくと、次第に顧客(お客様)のファーストコール会社になります。ファーストコール会社とは『何か課題ができた時に最初に連絡する会社』のことです。あらゆるアカウントにおいて何か課題が発生すると『まず〇〇へ相談しよう』という『〇〇』になれば、アカウントマネジメント活動の目的である『アカウントと強い関係性を構築(面接触)し、長期的に売上を計上しながら、顧客の満足度を維持していく活動』が正しく行われていることになります。
しかし、実際は上記2つのポイントを進めてみても『なかなか顧客関係が強化されない』とか『製品はラインアップしたけど全然売れない』という問題に直面します。
そこで重要になるのがアカウントマネージャーの役割です。一般的にアカウントマネージャーと呼ぶと、大企業の一ブランド担当者という意味合いで使われることが多いです。例えば『私はコカ・コーラ社のジョージア(コーヒー)アカウントのマネージャーをしています』のように。
ここでいうアカウントマネージャーは顧客(お客様)のアカウント全部を統括して見ているコンサルタントという意味で使っています。
つまり顧客のあらゆる事業所、子会社で行われている商談を全て認識し、エリアの営業担当や製品企画担当者を手足のようにつかい、顧客と自社の関係性を強化していく人になります。そのような役割を持つため、並みの人では到底不可能です。コミュニケーション能力(聴く力)、構成力(製品の組み合わせやROI提案)、実行力(課題を解決しながら進めていく力)を持ちあわせた人を人選しなければ、上記のような失敗例に繋がります。
人選方法としては、やはり営業部のエースが最適な人選だと思います。このエースがアカウントマネージャーとなり、5社から10社ぐらいの最重要顧客(お客様)を担当し、これらの顧客のすべてのアカウントにコンタクトします。もちろん日常の相談や、商談のクロージングはエリアの営業担当が対応するのですが、アカウントマネージャーは顧客の各アカウントを定期的に訪問し、その顧客全体の課題を探索したり、実際の商談の調整をします。何べんも説明していますが、アカウントマネジメント活動の目的は『顧客との関係性強化』と『永続的な新製品の企画、販売』です。
アカウントの課題⇒新商品の企画・提案⇒アカウントの課題解消⇒別のアカウントへ提案⇒販売拡大⇒一般顧客へ提案⇒更に販売拡大の流れをアカウントマネージャーが中心になって回していけるような人選並びに組織体制を作らなければなりません。
アカウントマネージャーの役割や選出方法については、過去の投稿(『アカウントマネージャーとは【第8回】』)に図解入りでしっかりと説明されていますので、そちらも是非確認してみて下さい。
さて、今回はいかがでしたでしょうか?前回、今回とBtoB系製造業では必要不可欠のソリューションビジネスとアカウントマネジメントについて説明させて頂きました。縮小するマーケットで戦っていくためには、優良顧客を見極め、その顧客のあらゆるアカウントに対して売れる製品を企画、販売し、このサイクルを早めていくことで小さな市場での勝利を積み重ねていくことです。これは薄利多売とは違います。商取引そのものは課題を解決していくのでむしろ収益性は高まるのです。『ソリューションビジネスは価値のやり取り』であるということです。
では、今回はこれまでです。また次回、ごきげんよう!
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