知人より『最近、営業関連の投稿が減っていますね』との指摘がありました。なるほど、最近、業務的にもちょっと営業から離れていたので、あんまりブログテーマとして取り入れてなかったみたいです。
ちょうど営業の同僚と最近の若手営業マンについて話をしたところだったので、今回は、その時の話をベースに営業マンの育成と営業マネージャーの役割について触れていきたいと思います。
ちなみに同僚との話というのは『最近の営業の新人たち、ガツガツしてないので数字あがらないんだよねぇ。どうやったら営業力上げられるかなぁ』といったものでした。私はなんとなくこの発言に違和感を感じたのです。
営業マネージャーの役割とは
法人営業と若手営業マン教育
私は入社から営業一筋20年でしたが、ここ10年ぐらい営業に近いポジションの責任者として、いろいろな部門で若手社員の教育に携わってきました。今、いるアフターサービス部門の修理技術者は、教育スケジュールの調整がやや難しいとはいえ、教育そのものはカリキュラムに従って段階的に行うことができ、複数のメンバーを同時にレベルアップすることができます。
販促(営業企画・プロモーション)部門などでも、マーケティング関連の基礎知識、デジタルコンテンツの活用などは、外部講師や e-Learning を活用し、代表的なフレームワークを学習させることで、メンバー全員のスキルを高めることができます。
これらの部門の業務は、新入社員で入ってきた時の能力差(ほとんど0に近い)があまりないので集合教育をすることで、全員のスキルを同程度に上げることができます。
ところが営業マンの教育がなぜ難しいかというと、営業マンに必要なスキルは個々の性格に依存するところが多く、その能力は、配属された時点では明らかに差があり、集合教育などで全体の底上げをすることが難しいのです。そのため、マナー教育ぐらいはするものの、営業自体の専門教育は相変わらずOJTがメインになっているのだと思います。
私の会社のようなBtoB製造メーカーの営業マンは比較的、対象社数が少なく、また新規というよりは既存のお取引のある会社がメインの営業活動となります。そのぶん、長期的な非常に強い人間関係が必要となり、より深いおつきあいを築かなければなりません。
一般的にBtoB系営業マン(法人営業)は非常に幅広い業務を受け持つことになります。販売活動だけでなく、納品した製品の稼働状況確認やクレームの受付、日々の依頼の返答や食事やゴルフといったリレーション構築活動もあります。にもかかわらず、若い営業マンなどは担当エリアのリストを渡されるだけで、あとは何の指導もなくお客様を訪問させられます。また、与えられたエリアの案件数など関係なしに、あてがいぶちの予算を背負わされ、日々営業マネージャーに管理、評価されます。
営業マネージャーは会議で 『今月の数字はどうなんだ』、『あの商談はどうなっている?』と若手営業マンに問いただします。顕在化した案件だけに興味を持ち、脈がありそうだと判断すると『よし同行するぞ、アポを取れ』のような刹那的な対応に終始することになります。これでは、若手営業マンの営業スキルが上がることはないでしょう。当然、ガツガツしなくなるのも当たり前です。
私は、このような状況に置かれた若手営業マンがどうなってしまうのかよくわかります。まず、気が利いた優秀な営業マンは早々と退職を申し出ますし、その勇気のない営業マンはとにかく日々仕事を探して回ります。
ここでポイントなのは『仕事を探し出す』ということで『仕事の成果を上げる』ではありません。
実は営業マンは仕事を探そうと思えばいくらでも探せます。納入した機械のクレームを聞いて帰ってアフターサービス部門と処理の交渉をしたり、新規拡大と称して購買見込みのないユーザーに往復3時間もかけて面会してくるなど、まだこの辺は良い方です。
今後どの商材も全く見込みのないユーザーに訪問して、お客様の昔話を1時間も聞いだただけで満足したり、ひたすら展示会の案内状を配って1日が終わる営業したふり営業マンなどもいます。もう営業の目的と手段をはき違えています。
さらにひどいのは、内勤グセのつく営業マンです。社内で資料を作ることが面白くなって、せっかくの営業時間帯を使って資料を作りに明け暮れる営業マンなどもいますね。言語道断なのは、昼の10時ごろに交通費の清算やSFA(営業支援システム)の入力をしている営業マンです。ここまでくると、ほぼさぼりに近い行為です。
営業という職務はマネジメントのほとんどを個人に委任されている極めて誇り高き職種だと私は今でも考えています。それだけに成果に対しては絶対的な責任を負っています。せっかく配属された人材を、上記のような『仕事を探す』営業マンにしてしまっているとしたら、それは営業マネージャーの怠慢に他ならないのです。
ちょっと古い投稿になりますが『営業という仕事【第11回】』でも私の営業のあるべき姿について述べていますので、良かったら一緒に読んでください。
営業マネージャーの役割
営業マンの教育で難しいのは、前述の個々のスキルに依存することの他に、相手(お客様)側も千差万別になること、そして教育される側の営業マンの方が、目標達成(例えば売上予算の達成)のための情報を一番持っているということです。
ここで大事になるのは、営業マネージャーと営業担当の役割を間違えないことです。冒頭の同僚(営業マネージャー)が発言した『最近の新人、ガツガツしてないので数字あがらないんだよねぇ。どうやったら営業力上げられるかなぁ』の違和感です。
これは営業マネージャーである同僚自身がアクションを起こさなければ、若手の営業マンが自発的に改善することは絶対にないのです。
営業マネージャーには大きく2つの役割があります。よく営業マネージャーの役割というと売上数字や案件数の管理を思い浮かべる人が多いですね。とにかく会議が好きで短期的な案件の確認に終始し、ビジネスタイムにオフィスに残って月末の会議資料作りに精を出したりしている営業マネージャーなどは役割を全く果たせていないマネージャーです。
営業マネージャーの1つ目の役割は、営業マンの案件管理ではなく、営業マンの案件管理の管理をしなければなりません。もう少し詳しく説明すると営業マンの商談・案件管理が正しく行われているのかを数値で表現して軌道修正していくことです。
営業という仕事はお客様に一番近い担当営業マンが一番情報を持つことになります。つまりそのエリアの状況はマネージャーよりも担当営業マンの方が詳しく(出ないと困るのですが)なるので、案件の管理やそれこそ実績の数字などは担当営業マンに任せればよいのです。このようにすることで、担当営業マンは自分がやらなければいけない数字に責任感が出て、よりモチベーションと緊張感が保てるようになります。営業は個人事業主であるというぐらい任せていけば、ガツガツとは言わなくても売上数字に対してポジティブな営業マンが作られます。このような営業マンが多くなると、自然と強い営業組織になっていきます。
とはいえ、数字がなかなか伸びない営業マンもでてくるでしょう。ここに力を注ぐのが、営業マネージャーの役割となります。担当営業マンの案件管理が正しく行われているのかを管理していきます。
売上が伸びない営業マンは案件管理や商談の進め方のどこに問題があるのかを、全営業マン共通の指標を利用して分析します。
これは販売する製品でも変わってくると思いますが、良く使われるのが訪問件数だったり、キーマン面談率ですね。またお客様の規模や過去の取引高、案件の進捗状態別にKPIを作ってもいいかもしれません。『商品Aを売り込みターゲット50社を決めた場合、初動1か月のキーマン接触率はどれくらいなのか?』『商談フェイズBの案件に対する訪問頻度はどうあるべきなのか?』といった管理指標をチーム内の個々の案件管理のKPIとして組織内に落とし込み、その指標を管理していくことで営業の生産性を高めるものにしていくことが営業マネージャーの1つ目の役割です。この際、KPIはイメージではダメです。しっかりとした数値で表現し、それが案件の成約率と繋がらないものであれば、KPIを変更していく必要があります。売れる営業マンの行動パターンをKPIに落とし込んでもいいでしょう。
このように営業マネージャーの仕事は数字や案件の管理ではないのです。会議用の売上報告資料が作りたければ営業アシスタントの女性にお願いすれば、よっぽど早く、体裁の良いものが作れます。
さて、もう一つの重要な役割がコーチングです。営業マネージャーは担当としても営業のプロであるべきです。従って自分よりも未熟なスキルを持つ担当営業マンに対するコーチングは非常に重要な仕事になります。
例えば、商談が最終の局面となり、受注できるかできないか、といった時のクロージングテクニックや、リレーションの壁に突き当たった時に、新しい人間関係を構築するためのテクニックなど、実体験の中で得た属人的なスキルを、日常の業務の中で適切にコーチングすることです。
プレゼン資料作成時にプレゼンの構成をアドバイスしたり、客先で実施する前にプレゼンテーションをレビューすることも重要なコーチングです。このコーチングという経験的な技術の伝承は営業マネージャーの極めて大事な役割となります。
また、優秀な営業マンが短期間でたくさん揃っている会社は、必ずロープレ(ロールプレイイング)に時間を割いています。ロープレは個々ではなく複数のメンバーと一緒に行うことができ、また実践の模擬練習となるため、短期間に営業力をつけるにはもってこいの教育方法です。社員同士なので気恥ずかしさなどもあるのですが、真剣に実際のお客様を想定して実施しなければ効果が半減します。またプレゼンテーションのレビュー時はロープレで全く基礎知識のない新入社員や、女性アシスタントに聞いてもらうのも効果があります。全く知らない人にどれだけ商品の魅力を伝えられるかを測るのにこちらも効果的です。言い方は、ちょっと適切ではありませんが『同僚を騙せないで、お客様を騙せるわけがない』というのが私のプレゼンのポリシーです。まさにこのことの練習です。
では、最後に営業マネージャーの役割のポイントをまとめておきます。
(1)数字の管理ではなく数字の管理の管理をする
後で説明をしますが、売上や案件の管理は担当営業の仕事です。営業マネージャーはその担当営業マンが正しく案件管理ができているかを、共通の指標(KPI)で確認し、管理のやり方を自部門内に落とし込んでいくことです。
(2)教えるのではなく気づかせる
『コーチングをしっかりやりなさい』という指示をすると、朝から若手の営業担当を呼んで1対1でやっているマネージャーがいます。しかし横で聞いていると一方的な命令に感じるものが多いです。コーチングは教えるというよりも気づかせる行為です。これがないとすぐ忘れますし、応用が利かなくなってしまいます。
(3)経過の監視と軌道修正
コーチングで多いのが一方通行なものです。前述の気づきもそうですが、何か部下に対して気づきを与えられたとしても、そこで終わってしまっている上司が少なくありません。コーチングしたら、担当営業マンのアクションを監視し、間違った方向に進みだしたら、すぐ方向転換させなければなりません。この指導→行動→監視→修正でコーチングの1つのサイクルとなります。
担当営業マンの役割
では、担当営業マンの役割はどうなるでしょう。これはまさに商談管理に注力です。自分の担当エリアの案件を探して育てていく役割です。営業マネージャーが作った案件管理のしくみがうまく機能していれば徐々に案件数が増え、かなり先の見通しがつけられるようになってきます。
これらの案件管理シートについては会社や部門で統一の書式をとるところもありますが、私としてはそれぞれ好きな管理シートで案件管理ができていれば、それで良いと考えています。シートの出来栄えよりも案件の量が重要です。
ちなみに私が営業していたころ、売上目標を達成するためには、その3倍の案件を集めなさいと指示されていました。案件の進捗具合で商談をA~Dに分け、Aは受注済みまたはほぼ受注できる案件、Bは受注が見込める商談でうちが優勢な案件、Cは競合と競っている、またはやや劣勢、そしてDは煙商談と呼び、話はあるがすぐではない備忘録と考え(今はSFA導入に伴い、もっと詳細に定義されていますが。。。)この中でA~Cで3倍になるように管理をしていました。
不思議とその割合で達成できたり、できなかったりしていましたので、当時はイメージで決めたのでしょうが、良いKPIだったのだと思います。
最後に営業活動していく中で、どのように案件数を増やしていったらよいのかをまとめた表を添付しておきます。
担当営業マンは、まず顧客の層別です。これは製品が複数あるのであれば製品別に層別します。なによりも製品を買ってくれるお客様をしっかりと定めて営業活動することから始まります。それができたら顧客に受容されることです。層別したお客様と接触し、自分の存在を認知してもらう活動です。
さて、ここからはレベルが上がります。お客様に接触できるようになったら、今度はその製品購入のキーマン(購買決定者)への接触と提案です。ここまでくるとそれなりの営業スキルやリレーションが必要となるので、大きなお客様ともなれば一朝一夕ではたどり着けないでしょう。最後は課題解決、つまり受注となるのですが、法人営業は顧客との長期的な関係作りが案件数の拡大に直結します。新しい担当エリアを受け持ったら、このステップの通り、迅速にお客様とのリレーションを構築し、3倍の案件を常に持てるように活動していくことです。
これも少し古い投稿ですが、反対論的に『営業マン不要論【第29回】』を投稿しています。こちらも是非、読んでみて下さい。
さて、今回は久しぶりに営業関連の投稿をさせて頂きました。営業のマネージャーから『どうやったら営業力上がるかなぁ』と発言が出る時点で、営業マネージャーの役割が機能していないと感じました。SFAのダッシュボード(一覧画面)もどんどん見やすく改良されていますが、ほとんどが数字を管理・集計する機能です。SFAソフトは案件管理が目的です。結果の集計は基幹システムで自動集計すればよいのです。
これからBtoB製造業の営業マンは、より高い営業スキル、アカウントマネジメントの能力が必要となります。一部では世の中から営業職が無くなっていく話も良く聞かれるようになっていますが、個人的には『営業職は絶対になくなることはない』と考えています。特に販売と営業は全く性質が異なるものです。今後の営業職は、更にレベルの高い提案型、コンサル型に変化し、営業スキルはビジネス社会においてより貴重なものになると考えています。是非、この誇り高い職種を希望し、トップセールスマンを目指す人が増えて欲しいと感じます。
では、今回はこれまでです。また次回、ごきげんよう!
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