前回に引き続き、『強い組織』をテーマに、組織のリーダーはどういったところに心掛ければ『強い組織』を実現できるのか?について深めていきたいと思います。前回、説明をしたグレイナーの企業成長の5つのモデルの第一段階のように、組織が小さいうちは力わざで全員の意識を統一することが可能です。また、営業のように数値目標がある部門は1つの方向に意識を向かすことは比較的容易にできますが、やはりもっと多くの人数の組織だったり、それぞれのメンバーが本当に腑に落ちているのかを考えると精神論だけではどうにもならなくなります。
明確なビジョンを考える
理念(フィロソフィー)・ビジョン・ミッション・バリュー
小さな組織はもちろん、大きくていろいろな部門・階層を持つ組織を1つにまとめ上げるのが、組織全体のビジョンになります。ビジョンとはある程度長期間(5年~10年)での組織のGOALであり、『ありたい姿像』を端的に表したメッセージです。
ビジョンは組織内部だけでなく、お客様をはじめとする全てのステイクホルダに宣言するもので、まさに組織のメンバーが最終的に目指すGOAL(目的)です。
組織リーダーはビジョンを設定することが、最も重要な役割であり、この旗(ビジョン)を目指して戦略を立てていくのです。
他にも似たような意味合いで使われることが多いので、少し整理をしておきましょう。
(1)ミッション【使命】・・・事業が変わらない限り原則不変
何を目的に事業を進めているのか?企業(組織)の存在意義を表すもの
(2)ビジョン【展望】・・・中長期的(5年~10年)
将来どんな姿になりたいのかを指し示す指標、ゴール
(3)バリュー【価値】・・・原則不変(これを根幹にしている会社も多い)
企業(組織)で共有すべき価値観や行動方針
さて、このように見ていくと経営理念(フィロソフィー)はどのように関わってくるのでしょうか?これは企業によってマチマチですね。良く見られるのは経営理念の中にミッション、ビジョン、バリューが示されている同義タイプです。またミッション=経営理念という企業も数多く存在します。
ちなみに私の会社はミッションの上に経営理念が更に置かれている形です。これも少なくないです。
これを組織で考えた場合、ミッションとバリューは企業のコア部分であり不変のものです。そのため組織運営ではビジョンを共有することが重要になるのです。
ビジョンの重要性については是非、この本をお薦めします。『 THE VISION あの企業が世界で成長を遂げる理由 【江上 隆夫著 2019年】』ビジョンをお題目にせず組織目標を達成させるための意識改革がふんだんに書かれています。
最後に、世界的企業のビジョンとミッションをご紹介しておきましょう。
ビジョンの明確化
ビジョンの設定ですが、あまり大上段に構えても難しくなりますが、ここがいい加減だと組織の向かうべき方向が定まりません。また事業部レベルのビジョンの場合、一度決めたら5年から10年は掲げられるものにしなければならないのでリーダーは自社の経営理念や、ミッションを念頭において『○○年後にどのような姿(GOAL)であるべき組織なのか?』を自問自答して練り上げるように心掛けて下さい。
10人ぐらいの組織なら1年、100人を超えるような本部や事業部なら5年(中期経営計画年度)、カンパニーや企業レベルなら10年程度先のあるべき姿を現すビジョンが必要です。基本的には組織のリーダーが一人で、または中心人物数人で創り上げるもので、上記で紹介した『THE VISION』の作者、江上氏は、良いビジョンは下記の性質を持っていることを条件としています。
(1)自分たちが心から達成したいと願っている未来像
(2)『公共(社会)の夢』として多くの人々を引き付ける力があるもの
(3)深い未来への追求と自分たちの信念に基づいてつくられているもの
特に組織リーダーは(1)を意識して、自分たちの組織が『GOALを迎える時にあるべき姿』を、自社の歴史や風土、販売する製品やサービスの方向性などから、短くて、誰でも覚えられ、わかりやすい言葉でビジョンを定めるようにする必要があります。
前回の投稿『強い組織~グレイナーの5段階企業成長モデル【第79回】』の中でも話をしましたが、組織が次第に大きくなると、指揮権限の徹底、組織メンバーの統制、意識の共有などが難しくなってきます。その時にビジョンに立ち返って、全体の方向性を合わせていくことでバラバラにならずに成長していける『強い組織』が形成されると考えています。
前回の投稿をリンクしておきます。こちらから読んで頂けると一層、理解が深まると思います。
意識改革4つの接点
さて、ビジョンが定まったあと、これを組織に落とし込んでいくにはどうすれば良いでしょうか?
私は組織メンバーの意識を変えていくポイントに4つの接点があると考えています。またそれぞれの接点で効果的な方法(面接、研修会など)をマトリックスにしてみました。一部重複するところもあり、完全なMICEにはなっていませんが、考え方として十分使えるものだと思っています。
このマトリックスの横軸に意識を変える人と変えられる人の関係が示されています。1対1で実施するのか?1対大人数で実施するのか、ということです。
私はこれを意識変革の接点と呼んでいますが、大きく分けると4つの接点があると考えています。
また、作成中に付け加えたのが縦軸の意識変革レベルの軸です。下から上に行くに従って、意識レベルを変える難易度と重要性が上がってきます。
よく、意識変革をするのに、ただ気持ちだけが先走って、全組織メンバーを集めて演説をしたり、全員面接をする!と宣言して、2か月くらいかけて不毛な面接をしてしまったりするリーダーがいます。(まぁ、私のことですが。。。)この縦軸と横軸をうまく使うことで、その場に応じた意識変革の手段をとることができると思います。
①知覚品質の意識変革
知覚品質の意識変革とは社会人としての行動規範や会社の理念に従った行動方針の意識です。全ての根幹になるものです。ドラッカーがいう『真摯さ(Integrity)』を身につけていくことも、この領域になると思います。
この段階の意識改革で重要なのは1対1、つまり面談(面接)ですが、ポイントはセクション(係)単位ぐらいで行うことです。リーダーが末端の意見を聞きたいと若い社員を呼び出しても、なかなか本音は出てきません。また組織は上と下だけが共有していても機能しないのです。
また、もう一つのポイントは定期的に行うことです。面談というと年に1回というところが多いと思いますが、これでは1対1接点で狙う効果である共感力は醸造できません。組織のメンバーが多くて『そんなにしょちゅう面談なんかできない』というのであれば、頻度は減らさないで面談する人数で調整するようにして下さい。
組織の意識変革は、上の2割が変われば自然と8割までは浸透してきます。(2-6-2の法則)選び抜いた意識変革の種社員に対して毎月面談を行うことで、効果は確実に出てきます。
②業務スキルの意識改革
これはどの会社でもいろいろと取り組んでいることだと思います。現在の業務のスキルを向上させるために社内勉強会をしたり、資格を取得させたりすることです。自己のスキルが上がることにより自信がつき、組織の中で自然と成長方向への意識を増長させます。
この業務スキルの意識改革は全ての接点で行われます。OJT、OFF-JTなど実施する内容については、既にご承知のことと思いますが、この意識改革の最重要接点は会議力(レビュー、反省会)です。つまり狙うべき効果は意思決定力の強化となります。質問を受け、それに対して自分の意見を考え、答えていくことで意識が変革されていきます。
例えば、同行訪問時の営業車の中で、先輩や上司と商談の内容を確認しながら、どのように交渉を展開するのかをレビューしたり、また、何か失敗があった時に同じ組織内メンバー内で反省会を行い、対策案を検討したり、いずれも自発的に行動を起こし、意思決定のクセをつけることが目的になります。
また、この意識改革を進める上でもポイントがあります。
身に着けたスキルに対して見返り(手当、表彰など)を与えることです。非常に打算的に見られがちですが、努力に対し、何もないのではモチベーションが維持できません。私は営業時代は数字へのこだわりが異常に強かったので、報奨金などよりはとにかく売上金額、成績順位をなによりモチベーションにしていましたね。人によってモチベーションの高まり方はいろいろですが、獲得した技能や資格などについては手当制度をしっかりと確立するべきだと思います。
また、レビューや反省会(私はこれを会議と呼びますが)で意思決定したものを組織全体で共有することも重要です。これも意思決定者のモチベーションに大きく貢献すると思います。
会議の話になるとまた、長くなりそうなので過去の投稿をリンクしておきますが、最近、当時より一層会議嫌いになってきています。特に情報共有や、報告事項に終始する会議、こういうモノに限って毎月当たり前のように行われているのですが、このような会議はマーケティング活動(販売)ではありません。
会議は必要な時に関係者ですぐ集まって、解決を導く(意思決定)モノが唯一許される会議です。これについては、近々にまた新しい投稿したいと思います。
③マネジメントの意識変革
最後にマネジメントの意識改革です。会社の上位方針や組織のビジョンをしっかり理解し、それを戦略や戦術に落とし込んでいく際の意識改革です。
これには高いレベルでの教育が必要になってくるので、接点は競争意識もあおる1対多数(選抜)が良いでしょう。この接点の狙いは自己啓発であり、特にこの意識改革レベルのメンバーはそれなりに実績を残してきたメンバーが集まっているので、実施内容は長期的な外部講師による選抜型研修や、異業種交流会への参加が効果的です。
しかし、更に重要なのは絶え間ないトップからのメッセージです。知覚品質の意識改革でも述べましたが、人の意識を変えるのは並大抵のことではありません。1回や2回の面談などでは、到底変えることはできないのです。それこそ経営にかかわる戦略や戦術を理解し、自分の意識をもって進めていくようになるためには、リーダーからの絶え間ない事業目的(ビジョン)の発信が必要です。
よく仕事を楽にするためには組織の中に自分と同じ人間を作ればよいという話がありますが、マネジメントの意識改革とは、この話に近いです。同一人物とは言わなくても、自分の右腕、左腕を少しづつ組織の中で育成をしていくことです。
ここで有効なのがマネジメントチームの編成です。これは組織を横断的に見るチーム(各部署から兼務でも最初はいいが、最終的には各組織のエースクラスで編成)であり、全体の組織運営や新規事業を担当させます。当然、このチームの長は組織のリーダーであり、リーダーがある時は個人に、ある時はチーム全体に意識変革を促していきます。
これらの業務は経営的な知識が必要となり、またリーダーと同じ目線、同じ場面で仕事をすることになるので短期間で意識を変革させ、自分の分身を作り上げることが可能です。
重要なポイントは各部門のエースクラスをどうやって引き抜くかです。当然、エースクラスを抜けばその部門の戦力ダウンは否めません。しかし一人の能力は限られています。全体戦略に長けている人材を販売だけに使うのではもったいないわけです。これを部門長としっかりと話し合い、人材の有効活用をしていかなければなりません。
また、このチームは直接収益を生みだす部門ではありません。もちろんそのためのアイディアを出す部門なので間接的には貢献するのですが。なので人数は必要最低限でスタートが望ましいですね。
会社全体だとマーケティング部門だったり、新規事業推進などと呼ばれる部門になります。組織の場合は、選抜された際にモチベーションが高まるようなチーム名をリーダーが決定するのが良いのではないでしょうか?
また選抜されなかった同等レベルの社員のケアも意外と重要です。こういったチームを編成する時に、どこかで線引きが必要で、その葉境にある社員が選抜モレしたことでやる気を失うケースもあります。これについても部門長としっかりと相談した上で面談を行い、モチベーションを保てる算段が必要となります。(チームの短期間入替や残った部門での役割拡大など)
さて、今回はいかがでしたでしょうか?最近は日々の業務をブログにぶつけて自分の頭の中を整理している感じが強く、読者の皆さまにはわかりづらくなっているかもしれません。私自身も書いては書き直し繰り返し、思考錯誤しています。しかし、そんな中で生み出した理論なので逆に、同じように悩んでいる方々には理解できるのではないかと勝手に想像中です。
BtoB系製造業の変革はいよいよ抜き差しならない状況まで来ています。今こそ、大きな内部変革を起こす必要があるのではないでしょうか?そしてその第一歩は『人の教育(意識変革)』しかないと思います。では、また次回、ごきげんよう!
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