イノベーションの7つの機会【第81回】

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飛躍する人経営戦略

企業は絶え間なく変化のある市場の中で戦っています。21世紀に入り、よりこの変化のスピードは早まっています。ここ数年は、ある市場で大きな成功を得た企業が、わずか5年後には没落してしまっているような、まさにジェットコースターのようなマーケット中で生き残っていくためには、常に新しい事業を考えていくことが重要です。ドラッカーはこれをイノベーションと呼び、マーケティングと並び事業経営の根幹に置いています。
しかし新しい事業を創り出すことは容易なことではありません。比較的、技術系で保守系の幹部社員が多いBtoB系製造業は、この新規事業の開発が出遅れ気味です。
今回はドラッカー『イノベーションの7つの機会』からBtoB系製造業新規事業を生み出すヒントを考えていきたいと思います。

ドラッカーのマーケティングとイノベーション

事業の目的は『市場の創造』

『マネジメント』など経営学関連で多くの著書、発言を残している巨匠ピータードラッカーは、企業が事業をする目的を『市場を創造すること』と定義しています。つまり中小企業でも一兆円企業でも、事業をする目的は市場、つまり顧客を生み出し顧客の課題を解決することであり、それができている事業が社会の中で存続できるとしています。
市場を生み出すこと=成果(収益)を生みだすことですが、単に成果(収益)を上げるだけではなく、その成果によって顧客課題の解消という社会的な貢献を伴って、ようやく事業は社会の中で存続するという考え方です。

その上で事業が持つ2つの基本的な機能としてマーケティングイノベーションを上げています。
マーケティングとは『顧客課題を起点にした製品やサービスを最適な方法で顧客に提供する』ということです。私が自分のブログの中で一貫として伝えてきたソリューションビジネスの根幹です。
もう1年も前の投稿になりますが、『ソリューションビジネスは価値の取引【第2回】』ソリューションビジネスの基礎の基礎が説明されていますので、リンクしておきますね。

ソリューションビジネスは価値の取引【第2回】
さて、前回は自己紹介がてら私の職歴とBtoB系製造業のソリューションビジネスの理解について書かせてもらいました。ソリューションビジネスについて、少しは興味を持って頂けましたでしょうか?さて、今回から2回ぐらいで、まずはソリューションビジネ...

イノベーション

一方、本稿のテーマであるイノベーションは、新しい価値を生み出すことです。顧客がまだ気がついていないニーズ(シーズ)を見つけ、新たな需要を創造することです。本は書店で購入するものという常識を打ち破ったAmazon、携帯電話という概念を破壊したAppleなど、新しい技術によるイノベーションだけではなく、販売の仕組み、システム、商品の組合せなども含めた新しい価値創造です。

つまりドラッカーはマーケティングで顧客を洞察し、顕在化した課題を解決しながら、絶え間ないイノベーションにより潜在化されたニーズを見つけ出し、更に新しい市場を創造するということを事業の目的にしているということですね。極めてシンプルで、最近はやりの『両利きの経営』にも大いにつながるところです。
『両利きの経営』を読んだ直後に投稿した『イノベーションのジレンマ【第76回】』にもイノベーションについて書かれた投稿がありますので、よかったら一緒にお読みください。

イノベーションのジレンマ【第74回】
BtoB製造業がぶつかる大きな壁、これがまさに新規事業展開です。製造業は開発部や大きな生産工場を持っているため、なかなか新規事業に乗り出すことを苦手としています。しかし、成熟市場の中で、既存製品の改良だけで生き抜いていくには限界があります...

一般にイノベーションと聞くと、革新的な技術革新をイメージしますが、どんなに技術力の優れた企業でも常に革新的な技術革新を生み出していくことは容易ではありません。
また、世の中でイノベーションを起こしてトップに登りつめている企業も製品の技術革新ではなく、ビジネスのやり方で成功を収めています。
ドラッカーはこのイノベーションが生まれるチャンス(機会)市場が変化している時にあると考え、このちょっとした変化を見つけることイノベーション(の芽)としています。
ドラッカーはこの変化を7つのモデル(機会)に分けて説明しており、21世紀になった現在でも、この7つのモデル(機会)は十分参考になるものだと思います。
では次項で1つずつ説明していきます。尚、ドラッカーは上から信頼性確実性で並べています。つまり、上にあるほど取り組みやすい案リスクが少ない、下に行くに従って取り組みが難しくなっていく感じです。

イノベーションの7つの機会

第一の機会:予期せぬものを利用する

予想外の成功や、思いもよらないお客様からの問合せなど、事業を行っていると時々遭遇します。これを『たまたま運が良かったよな』とか『なんか変な電話かかってきたんだよ』で終わらせてしまってはいけないのです。逆にこの事象こそが新規事業の種になるのです。
『なぜ、うまくいったのだろう?』『なんで、あんな問合せがあったのだろう?』と予期せぬ事象を市場の変化として考えることです。
感度を良くして、成功した商談や、変な問合せがなぜ起きたのかを一度考察してみることで、思わぬビジネスチャンスが見つかることがあります。

また、ドラッカー成功事例だけではなく失敗事例も、何かしらかの新しい変化が起きている可能性であると述べています。
『なぜいつものように上手くいかなかったんだろう』という予期しない失敗市場に変化が起きていると考え、思わぬビジネスチャンスが隠れているのではとポジティブに考えるクセをつけるようにしましょう。
予期せぬことが発生した場合、予期せぬ事象が発生した顧客を洞察、調査することです。ドラッカー曰く、イノベーションの機会は顧客側にしか存在しないのです。

予期せぬ成功事例~ネスレ・キットカット

なぜか3月に売上が上がる現象から、市場を調査したところ、『キットカット(きっと勝つ!)』の語呂合わせで受験生のお守りとなっていたことを発見、ここから受験と連携するキャンペーン企画を展開し、売上拡大と受験のアイテムとしてのブランドイメージを確立した。

第二の機会:ギャップを探す

ギャップというのは、現実と理想(あるべき姿)の差です。これは新規事業を考える時には、必ず討議する部分ではないかなと思います。
業界の中で『他社は結構業績が伸びているのに、わが社はなんでダメなんだろう?』?というのは業績のギャップです。市場や他社を調査し、このギャップを埋める自社の付加価値を考えることです。
ドラッカーはこの業績のギャップ以外に、認識のギャップ価値観のギャッププロセスのギャップを挙げています。
これらの3つのギャップは『発想の転換』です。認識のギャップは『電話は遠くの人と話をするもの』という認識を打ち破ったApple社のi-Phoneが良い事例でしょう。
また価値観のギャップは、私のブログでも良く紹介している『八百屋とコンビニの野菜の売り方』の話ですね。八百屋さんは新鮮な野菜を低価格という価値で売っていますが、コンビニは便利できれいな1人前のサラダという価値で売っています。料理好きの家族のいる主婦ならば前者の価値を選ぶかもしれませんが、70歳を過ぎた女性や独身の男性は後者の価値を選ぶでしょう。
プロセスギャップは従来のプロセスに対して、それを置き換えたり、短絡することです。例えば、ピザ屋はピザを家まで運ぶというプロセスが常識ですが、最近は持ち帰り半額サービスを展開しているピザ屋さんが多いですね。これは『ピザを配達する』いう工程を価格というファクターを使って、顧客に置き換え、工程を短絡した事例といえるでしょう。

第三の機会:限定されたニーズを見つける

第一と第二の機会は、既に反応している市場の変化を見つけることですが、ニーズを見つけるというのは、まだ変化が出ていない時点で、顧客が求めているもの(ニーズ)を探すということです。言うのは簡単ですが、このようなものを見つけるのは容易なことではありません。
また、顧客に入り込み『足りないもの・欠けているもの・困っているものは何か?』といった課題を探し出し、その課題に対して自社のリソースで解決ができるかどうかを考察してイノベーション(商品化)の可能性を探ることになります。

ドラッカーは『ニーズは企業や産業の内部に存在しており、主に3つの観点から探ることができる』としています。
(1)プロセス上のニーズ・・・工程上のボトルネックを解決するニーズ
(2)労働力上のニーズ・・・労働生産性(省力化・省人化・スキルレス化)を向上させるニーズ
(3)知識上のニーズ・・・開発や研究の知識を補うためのニーズ

ニーズを見つけたら、それがイノーベーションになりうるのかを考えなければいけません。ドラッカーはそれを3つの条件に照らし合わせて判定することが重要だと述べていますが、これがやや、わかりにくいのです。

①ニーズは明確に理解されているか
②必要な知識は現在の科学技術で手に入れられるか
③得られた解決策は、それを使う人たちの使い方や価値観と一致しているか

私なりの理解でフィルタをかけて考えると、1つはニーズの核心(本当に必要なニーズ)まで掴んでいるかということでしょう。
良く環境分析や市場のヒアリングをした後、顧客の課題は『単純作業の人手不足』のように漠然としたニーズまでしか掴まない状態で商品企画に入ってしまうと、結局、企画書まではきれいにできるのですが、実行側に進まない状態になってしまうことが多いです。
顧客側に視点を置いて、その課題の中でも何がボトルネックで、どういった状態になって欲しいのかを考え抜くことが、ニーズの核心を掴むということになります。
またここでいう価値観の一致費用対効果です。その課題解決に対して、最適な経済性で供給されているのかを考慮にいれないと、独りよがりな売れない製品となってしまいます。
また、どんなに的確なニーズを掴んでも現在の技術では解決できないものでは、製品になりえません。これについては将来の投資案件とも取れるので一概に無視できませんが、短期的なイノベーションには気をつける必要があります。

第四の機会:産業構造の変化を知る

第四の機会は、顧客の変化よりも、もう少し広い産業や市場の変化を察知せよ、ということです。市場は決して永続的なものでも、安定的なものではありません。
ここ5年ぐらいだけでも、一部の大きなイノベーターによって産業構造が崩壊させられています。音楽や映像の配信サービス、Amazonを筆頭とするオンライン販売と電子決済などにより、わずか数年で今までの専門小売業(CDショップや書店)は撤退を余儀なくされました。
短期間で大きくゲームチェンジしたものに写真のDPEが挙げられます。私の学生時代、写真は撮って写真屋さんに現像(DPE)に出す、と言うのが当たり前でした。
しばらくすると、『写真屋45』のような大資本のショップができ、低価格で早いという付加価値で小さな写真屋は次々と廃業していきました。
その後、カメラがデジタルに移行すると、顧客は自宅でプリントするようになっていきます。このイノベーションはDPEという市場そのものを無くしてしまうようなもので、DPEサービスは事業としては終わったかのように思われました。
ところが、最近では自宅でプリントすること自体、手間とコストがかかるため、『しまうまネット』のようにWEB出力サービスが主力になりつつあります。
また、そもそも写真は出力せず、携帯やデジカメの中に保存という顧客が増えているニーズに着目し、フォトアルバム作成サービスや、大切な写真のストレージ(保管)サービスなどという新しい製品も生まれています。このDPE事業については10年ほどで何度も大きな変化に晒された典型的なパターンです。

それまでの安定した構造が崩壊するということは、その市場で成功を収めている企業にとっては大きな危機です。しかし、成功を収めている会社ほどこの危機を軽視して、市場構造の変化への対応に遅れをとることが多いのです。
こういった産業や市場の新しい変化顧客の変化以上に大きな影響を与えます。逆にこういった変化に敏感に反応するような感度があればイノベーターから市場を奪還し、自社のイノベーションにすることができるのです。

第五の機会:人口構造の変化に着目する

第五の機会は人口構造の変化です。ドラッカー未来が正確に予測できる因子として重要視しています。人口の増減や年齢構成などが変化すると、社会が大きく変わります。
日本の場合、少子高齢化という問題は2050年までかなり正確な予測がされています。5人に2人が60歳以上になる未来を想像することで、どんなニーズが生まれるかを想定することは比較的容易に考えられます。(但し誰もが考えること、自社のリソースでできないものはダメです)
自社のリソースと少子高齢化や働き方改革などの施策を照らし合わせながら、社内でチームを作りブレーンストーミングをするものいいでしょう。何かニーズを見つけたら、その市場の調査をすることにより、見えない変化に気づくチャンスが発生することもあります。

第六の機会:認識の変化を捉える

第六の機会は、私も少々理解できていません。ドラッカーの書籍から抜き出すと『世の中の認識が変わったことを敏感に捉えること』と表し、世の中の認識の変化について、半分水が入ったコップの例を挙げ、同じ状態であっても『半分入っている』から『半分空だ』と認識が変わるときがイノベーションの機会だとしています。
意味は理解できるのですが、今まで説明してきた機会の全てで、このような場面が考えられるのではないかと思ってしまうんですよね。
別にドラッカーを否定している訳でもないのですが、世の中の認識が変わるから『顧客が変化する(第一の機会)』とか、『産業構造が変化する(第四の機会)』とか思ってしまうのは私だけでしょうか?
しかし、この認識の変化と言うのは非常にポイントで、例えば今までお店のチラシを作成したいなと思った時は印刷会社に依頼をします。
担当の営業と打合せをし、原稿を作成、校正して1週間とか2週間かけて印刷ができあがるといった手順です。結構な手間と時間、費用をかけることで満足な印刷物ができるというわけですが、最近はWEBで印刷の仕事を受ける会社がCM等でも出てきていますね。
WEBでやり取りをするということは仕上がりもなにもわからない状態でい印刷物が届くわけですから非常に不安です。しかしこれは印刷発注者の印刷物に対する認識が『製品の情報が伝われば良い』と言うところまで下がってきているのがポイントなのだと感じています。

第七の機会:新しい知識を活用する

第七の機会は、BtoB製造業では長い間行ってきた、いわゆる技術革新です。技術的な発展、発明、社会的知識などによるイノベーションです。
何か新しい技術や素材が開発・発明され、それによりイノベーションが起きるということです。半導体の技術革新は家電をより小さく高性能のものに革新し、またインターネットの登場は、ありとあらゆる産業に対して製品の利便性を高めました。
しかし、これだけ高度に発展した社会の中で、企業が単独で技術革新を進めることは非常に難しくなっており、また製品単体での技術革新は、すぐにコピー商品を生み出し、コモデティ化します。

GAFA企業が展開する大きなインフラの中で、自社が提供可能な製品をモノではなく、コト(サービス化)にして、その切り分けられた市場の中で技術革新を起こす、具体的に言うと提供サービスのサブスクリプションを考えていくことが大事だと考えます。

さて、最後にドラッカーの著書は日本語訳されているものだけでも非常に多いのですが、今回の内容は『エッセンシャル版 イノベーションと企業家精神(2015年 ピータードラッカー著、上田惇生訳)』から、かなり参考に書かせて頂いています。

さて、今回はいかがでしたでしょうか?最近、新規事業の開発をテーマにした投稿が増えてしまっていますが、BtoB系製造業の大きな課題はこの新規事業(イノベーション)です。現在残っている製造業は、それなりに成功を収めてきた優良企業です。しかしこの成功体験が企業、または事業を大きな落とし穴になってしまうことも多いのです。
安定した売上を上げている事業を残し、他の不採算部門を切り落とし筋肉質な企業経営も一時的な効果は上げるでしょう。しかし、どこかでその主力製品は陳腐化し、社員の意識変革は進まず、いずれ衰退してしまうことになります。企業・事業は常に変化のある市場に適合する新しいイノベーションを考えていくことが大事なのです。
では、今回はここまで、ごきげんよう!

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