強い組織をつくるために~戦略と戦術【第84回】

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チェス組織論

『強い組織の作り方』をテーマに、最近何回か連載しています。現在のように景気が停滞しているときに企業間の差をつけるのは個々の人間力とそれがまとまった時の組織力です。
個々の人間の強さが組織の強さを生み出し、強い組織は確実に成果を出します
昨今、単純な仕事が次々とコンピュータに置き換えられていく中で、人が不要になってしまうのでしょうか?これは、全く逆な話です。むしろこういう時代だからこそ、人間個々の力、そしてそれが集約した組織の力が重要になっています。
これら個々の意識を統一させるのが、ミッション・ビジョンであり、そのミッションを具体的に落とし込むのが戦略・戦術です。

戦略と戦術を正しく定めるために

ビジョンとミッション

企業経営でも事業経営でも、またチームレベルの運営でも、強い組織は全員のベクトルが同じ方向を向いています。この組織メンバーの意識を統一するのが、ミッション・ビジョンでした。
ミッションは自社(自分の組織)が社会や市場に対して『どんな存在になりたいのか?』を表したものです。また、そのミッションが達成された結果、社会や市場を『どのようにしたいのか?』を表現したものがビジョンです。
自社の事業やチームの目的にしっかりと合致するビジョンミッションを定めることで個々の力を最大限に生かせる組織力を発揮することができ、成果の上がる組織が作れるようになります。
この辺については、ちょっと前の投稿『強い組織をつくるために~ビジョンとミッション【第82回】』で詳しく解説していますので、ぜひセットでお読み下さい。

強い組織の作るために~ビジョンとミッション【第82回】
先日、管理職になったばかりの後輩から『マネージャーにはなったものの、相変わらず仕事のやり方は今までの焼き増しで、このままじゃダメだと思うのだが、自分の色や強い組織の作り方、何から教育したら良いのかわからない』との質問を受けました。正直、私...

戦略(What)と戦術(How to)

戦略とか戦術とかよく使われる言葉です。特に戦略はしばしば目標設定などをするときに『技術力向上戦略』とか『販売力強化戦略』などと何か業務の施策のことを戦略と呼ぶことが多いですね。
やはり言葉の意味をしっかりと理解し、使い分けをしていかないと指示を受ける人の頭が混乱しますし、自分で説明していても体系化が難しくなってしまいます。絶対の定義はないのですが、やたら『戦略』を連発する人いますよね。まずはそこから学んでいきましょう。

戦略戦術は文字通り、軍隊用語です。例えば自分の領地を拡大していくためには、周りにある他人の領地を取っていくしかありません。その際にどの領地が一番攻めやすいのかを考えるのが戦略です。
つまり、進むべき方面と領域を決めるのが戦略ということになります。

どこの方面・範囲にでていくのか?

上のような領地図を仮定します。『自分の領地の拡大』という目標を掲げた場合、まず進出する候補地は、自分の領地に近い『領地A』『領地B』『領地D』が対象になりますね。さらに、この3つの中から、どこを最初に攻めるかと考えた場合、やはり領地が小さく、川を渡る必要がない『領地B』が最優先候補となるでしょう。
この『領地B』を攻めるというのが戦略です。もちろん、非常に簡単な事例で紹介していますが実際はもっと複雑です。たとえば『領地B』は一族の土地で攻める必要がない土地だったり、『領地C』は同盟を結んでいるため、『領地D』であれば挟み撃ちができるなど条件によって進出する方面や領域が変わってきます。
いろいろな条件を加味して目標である『自分の領地の拡大』最も効果的な方向性を示すものが戦略なのです。事業戦略で言えば、どの市場に出ていくのか?製品戦略でいえばどのセグメントで戦うのか?などということになります。

戦略が決まったら、次はその戦略を実行するための施策、つまり戦術を立案していきます。例えば先ほどの事例で『領地Dを攻める』ということが決まったら、『どのように攻めるのか』を考えます。武力で攻めるのか?調略するのか?また武力で攻めるのであれば、どういう方向から攻めるのか?同盟関係はどう使うのか?など具体的な実行スケジュール戦術ということになります。
この戦略と戦術の意味合いをしっかりと掴んでおくと、矛盾のない計画を立てることができ、指示も理解しやすいものになります。

良い戦略

戦争において戦略極めて重要です。戦略の失敗は領地を奪われ、大事な兵士や食料・兵器を失い、そして自分の命も失ってしまう可能性があるのです。
企業の戦略においても同様で、戦略の失敗は業績不振や企業破綻に繋がっていくのですが、戦争ほど真剣に考えられている例は少ないように思えます。

1)戦略はミッションに紐づく
戦略を立案する上で、なにより重要なのは戦略がミッションに紐づいていることです。ミッションとは『社会や市場で自社や自部門がどういう姿になりたいのか?』ということです。つまりミッション方向性を決めるのが戦略です。

ミッションとビジョン
事業戦略の構図

2)戦略が対策(戦術)になっている
また戦略を立案する上でもう一つ大切なことがあります。それは、まず徹底的に現状を分析し、目的達成に欠けているのは何かを見つけ出すことをしなければなりません。
例えば『肩が凝る』という課題があった場合、『マッサージをする』とか『鍼灸医院に行く』というのは対策や手段(戦術)です。戦術正しい戦略のもとに行われなければ、全く意味がないものになってしまいます。対処療法というものですね。
正しい課題解決は、まず現状分析です。精密検査を受けたら『内臓の疲れ』からきている肩こりだと判明した場合、上記の戦術を取っていたらどうなるでしょう?肩こりが永遠に治らないばかりか、内臓疾患も悪化し、大変なことになるかもしれません。(これ半分実話なのですが。。。)
戦略を立案する際は現状を可能な限り分析し、進めるべき方向性(方面・領域)を定めるようにして下さい。今回の『肩こり解決』の戦略は『内臓機能の改善』が戦略です。その戦略を立てた場合、戦術(対策)は『マッサージをする』とか『鍼灸医院に行く』は出てこないはずです。

良い戦術

では、戦術の方はどうでしょうか?戦術戦略に対して具体的に何をするべきなのかを考えることです。いわゆる対策、手段、施策などといったものです。これは比較的、日々の業務の中でイメージしやすいものだと思います。
戦略の項目の中で、戦争の例えをしましたね。戦争では領地の拡大のために、誰にどれだけの兵士や武器を与えて、どのように攻めていくのかを考えます。
現在の言葉に置き換えるとリソース(ヒト・モノ・カネ)の配分ということになります。戦術とはこのヒト・モノ・カネをどういったバランスで配置し、最大限の効果(成果)を出す施策を検討するということになります。

1)実効性がある施策
戦術を検討していく中で、とにかく意識しなければならないのが『実効性』です。どれだけ立派な戦術でも、進めることができないものでは意味がありません。ヒト・モノ・カネといったリソースがしっかりと確保され、可能な限り迅速に進められる戦術を考えなければなりません。
また戦術はより具体的に作成されなければなりません。つまりGOAL(目的)に対して期間を定めて、また責任者を決めPDCAを回していくことが必要です。

2)選択と集中
これは戦略の立案においても重要なことなので、ここに記載するのを悩みましたが、やはり戦術において実効性と並んで重要なことなので項目に入れました。戦術リソースの配分と言いました。このリソースは限りのあるものなので、よほど大きな企業でなければ、何かに集中的に配分していくことが必要です。これが選択と集中です。
最も効果的な戦術リソースを集中させて、最大限成果のベクトルを大きくすることが成功への近道です。よくあるダメな事例としては『販売不振の課題』に対する施策(戦術)などを考えるときに、自社のさまざまな製品に対して原因を分析し、それぞれの製品でプロジェクトを作り、結局、報告資料の作成と会議だけに時間を費やしてしまうようなものです。
このように書くと『そんなことはしないなぁ』と思われる人も多いのですが、実際にはしばしばこのような会議が行われています。責任者も納期も決めず、最悪の場合、目的も何かがわからず継続しているようなプロジェクトは即刻やめなければなりません。
ドラッカー氏曰く『成果は市場にしか存在しない、組織にはコストがあるのみ』の通りです。
まず、10点のアイディアが出たら1点、百歩譲って2点までとし、それに対して成果を最大限出すためには、どのようなリソースを注げばよいのかに集中することをしなければなりません。

3)付加価値(Unique Selling Proposition)の明確化
販売に関する戦術であれば、これは欠かせないので追記させてもらいました。販売戦術において、これは最も重要最も知恵を絞らなければならないものです。
戦争であれば、戦術アドバンテージがなければ兵力差で勝負が決してしまいます。企業で言えば資本力で勝ち負けが決まってしまうということです。
自社の製品が競合に対して『どこが上回っているから勝てる』を明確に戦術に落とし込むことで、より迅速で実効性の高い戦術が展開できます。逆にこれが明確にできない製品やサービスは戦術に落とし込むべきではないのです。

さて、今回はいかがでしたでしょうか?戦略という言葉は会議などでもよく使いますが、どちらかというと具体的な施策、つまり戦術のことを言っていることが多く、まとめていく中で矛盾が生じてしまうことが多いです。この不確かな社会環境では、常に戦略を練り、イノベーションを起こさなければなりません
まさにこの仕事は人間力が必要なのです。冒頭お話した通り、人間の仕事は続々とコンピュータに置き換わっていきます。人は人にしかできないクリエイティブな領域にシフトしていかなければなりません。この戦略を立て、イノベーションを生み出すといった仕事は人間にしかできないのです。なぜならイノベーショントライアンドエラーの過程を経てしか見つけ出せないものだからです。
基本、コンピュータの処理過程にエラーはありません。コンピュータのエラーはゲームオーバーを意味します。これからの時代は人間力を高め組織の力を最大にしてイノベーションを起こすことが最も重要なことになるでしょう。
では、今回はこれまでです。また次回、ごきげんよう!

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