先日、『外部環境の分析【第63回】』の投稿でPEST分析や5Force分析といった有名なフレームワークの使い方を説明させて頂きました。今回は、外部でなく内部、つまり自社内の分析(内部環境分析)について、やはり有名なフレームワークを使って説明し、実際に外部環境分析とどのように連携させて活用していくのかを書いていきたいと思います。
内部環境分析
内部環境分析とは
内部環境分析は文字通り、企業の内部環境、つまり自社の経営資源を分析することで競合に対してどこが強みで、どこが弱みなのかを明らかにすることです。
最終的には競合との比較から内部をどうのように改善すれば良いのか、ということになるので、外部環境分析がしっかりできている上で行わなければなりません。いろいろな解説書にて外囲部環境分析⇒内部環境分析となっているのはそのためです。
外部環境分析の時に活用した3C分析も自社が入っていますし、5Force分析の横軸は、考え方によっては自社のバリューチェーン上の利益の取合いだったですね。
環境分析の全体像についてわかりやすい資料がありますので掲載しておきます。時々引用させて頂いているビジネススクール時代の、Dグラントコンサルティング・椙山智先生の資料を一部活用して作成しています。
外部環境分析と内部環境分析の繋がり、またそれぞれの分析が導き出すメッセージとSWOTマトリックスとの関係が非常に理解しやすいと思います。
バリューチェーン分析とは
さて、内部環境分析で有名なフレームワークにバリューチェーン分析や財務分析などがあります。
5 Forcesの投稿でも説明したポーター氏は著書『競争優位の戦略』でバリューチェーンという言葉を生み出しています。バリューチェーン分析とは『企業が行う全ての活動のどの場所で付加価値を生み出しているのか』を分析するフレームワークです。
ポーター氏は、企業の活動を「5つの主活動」と「4つの支援活動」に分け、それぞれのプロセスでどのくらいの付加価値を生み出しているのかを分析することで、自社の強みや弱み、競合に対する機会や脅威を的確に知ることができ、自社の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を効果的に配分することができると定義しています。
ここで最も大事なのが『付加価値』の考え方です。バリューチェーン分析をする際、この『付加価値』は、自社製品の購入者のニーズを満たすものでなければなりません。
例えばある製品に開発者が新しい機能を追加した場合、この製品の『付加価値』は上がったといえるでしょうか?それが自社の購入者にとって必要としない機能であれば、むしろ調達コストや製造コストの増加に繋がり、購入者の不満足にも繋がりかねないのです。
バリューチェーン分析は各プロセスの『付加価値』をしっかりと捉えて、その『付加価値』と『生み出すコスト』をなるべく詳細に掴みながら分析する必要があります。そのためには組織横断的に参加メンバーを集めて分析することが重要になってきます。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析の進め方
バリューチェーン分析は非常に実践的な考え方で、恐らく製造現場などでは日々、これが下敷きになって業務改善をしていると思います。ところが販売戦略とか事業戦略とか大上段で構えて始めると、上記のポーター氏が考えた公式に無理やり、はめ込んで考えてしまうので、結局、フレームワークはできたけど何が分析できたのか良くわからなくなってしまうことも多いです。
フレームワークは実効性を伴うために作成するものです。日々の業務改善などのバリューチェーンを考えて使いこなせるようにしてみて下さい。
単純なことを言ってしまえば、メルカリでお小遣いを稼いでいる主婦が、『メルカリでもうちょっと収益を上げていく』ためのバリューチェーンを考えた場合、仕入 ⇒ 出品 ⇒ 発送というバリューチェーンが図式化できます。
どのように安く仕入れるのか、販売が大きく見込める商品は何なのか?を考えることで『付加価値』を高めることができます。
また出品時も紹介文や掲載写真に工夫をすることで製品の単価を上げることができたり、販売量を増やすことが可能となります。これはまさにマーケティングの『付加価値』です。また梱包等を効果的にすることで発送料を抑えることができます。これも立派な『付加価値』です。とにかく難しく考えず、思考回路にバリューチェーン分析がすぐにひらめくようにすることがなにより重要です。
では実際にバリューチェーン分析のプロセスを、こちらはもう少し教科書的に見ていきましょう。
①バリュー・チェーンを図式化する
当たり前の話ですが、まずバリュー・チェーンの流れを図式化することです。分析したい事業で関わっている項目を細かく分解してリストアップします。リストアップ後は、項目を主活動、支援活動に振り分け、製品・サービス提供の流れに沿ってプロセス順に並べていきます。
②機能別・工程別にコストを把握する
①で作成したプロセスごとに現状のコストを正確に算出していきます。コストの算出にはエクセルなどの表組みを用い、活用内容、部署名、年間コストなどを一覧にしてまとめることで全体像の把握が容易となります。ここをいい加減にやると打ち手が効果的に打てなくなります。
③機能別・工程別の強み・弱みを分析する
次にプロセスごとに強み・弱みを抽出して分析を行います。強み・弱みの分析には競合との比較が必要なので、競合のの分析も同様に行い、自社との比較ができるよう並行して競合の強み・弱みの分析を行います。
④VRIO分析で強みの質や施策の優先順位を設定する
VRIO分析とは、企業の経営資源を分析するために使われるフレームワークのひとつです。評価項目のうち強みとなる経営資源を、『価値(Value)』『希少性(Rarity)』『模倣可能性(Imitability)』『組織(Organization)』の4つの項目に分け、それぞれ競争劣位、競争均衡、一時的な競争優位、持続的な競争優位、持続的な競争優位と経営資源の最大化の5段階で評価することにより、課題の抽出や注力すべき優先順位を設定でき、他社との差別化に向けた経営資源の最適化、再分配を適切に行うことが可能となります。
SWOT分析
さて、SWOT分析は、ほとんどのビジネスパーソンが一度は使ったフレームワークではないでしょうか?ここまで説明してきた外部・内部環境分析は、まさに自社と競合を比較した場合、どこに競争のポイントがあるのかを浮き彫りにするためのフレームワークです。
どのような戦い方をすればよいのか(優位点の強調)、どの部分を補っていけばよいのか(弱点の補完)をすることで市場において常に競争優位を保つことです。これを明確にするフレームワークがSWOT分析です。
そもそもSWOTは、外部環境分析で導き出した自社の機会 (Opportunities)、脅威 (Threats)や内部環境分析で導き出した自社の強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、の4つ頭文字をとってSWOTと呼んでいますが、それだけでは戦略を導き出せません。上記の表のようにそれぞれをクロスさせることで、各4つのカテゴリーごと要因分析し、戦略の検討に役立てます。
①機会×強み
外部環境において追い風の要素があり、その環境において自社の強みも活かせる領域です。
⇒自社の強みに経営資源を投入し、積極的に事業を拡大するための戦略を立案。圧倒的なシェアを獲得し、そのマーケットでのブランド化を目指す。
②機会×弱み
外部環境において追い風の要素があるが、その環境において自社はあまり強くない領域です。
⇒弱みを克服できる特定な領域に絞って経営資源を再配分し、徐々に市場拡大を狙う段階的成長戦略を立案。また、外部リソースを活用(M&Aや企業連携)し、参入することなども検討する。
③脅威×強み
外部環境において向かい風の状況であるが、自社の強みは活かせる領域です。
⇒強みを活かすことで脅威が取り除けられることに経営資源を集中させる差別化戦略を立案。狭いポジションに絞って強みを活かした製品で高いシェアを構築していく。
④脅威×弱み
外部環境において向かい風の状況であり、またその環境において自社もあんまり強くない領域です。
⇒基本的には撤退戦略を立案し、最も自社の損害が少ない形で事業を縮小、撤収する
SWOT分析をすると、それぞれの枠にいろいろな戦略案ができてきます。これらを戦略オプションと呼び、縦軸に並べます。また、その戦略オプションに対して、いくつかの評価項目(収益性、自社の優位性、緊急性、投資対効果など)を横軸にとり、点数をつけていくことで、公平な優先順位を決めることができます。
最終的には短期的、中期的、長期的に3つぐらいの戦略オプションに絞って戦略案を見つけるようにするのが良いと思います。
前述のポーター氏は日本の企業の特徴として『戦略がない』ことを著書や講演の中で述べています。現在の日本ではだいぶ考え方が変わってきた企業もありますが、ポーター氏は『競合と同じ製品を良くして売ろう』とばかり考え『競合と違う製品を売ろう』という考え方がないことを指摘しています。
この『日本の競争戦略(2000年・竹内弘高氏共著』はBtoB系製造業のマーケティング部門や開発・製造部門の方々は、読んでおいても損はないかと思いますので、ご紹介しておきます。
さて、今回は内部環境を分析する上で非常に重要なバリューチェーン分析を説明させて頂きました。いつもお話をしている通り、これらのフレームワークは、どの場面で使うのかが決まっているわけではありません。
あくまでも知識の引き出しの数を増やし、さまざまなビジネスシーンの中で『こういった検討場面ではあのフレームワークがいいのでは』と持ち出せることが重要です。また、これらを使いこなすためには数をこなすことです。理論ややり方に、あまりこだわらず有効に活用できる応用力を磨いていきたいものですね。では、今回はこれまで、ごきげんよう!
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