BATNAとZOPA~ハーバード流交渉術【第64回】

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さて、事業を展開していく上で、他社や他人への交渉は必ず存在します。これは企業だけでなく、個人商店でも、伝統工芸品を作っているような職人でも一緒です。
日本のBtoB系製造業は、特に顧客への商品提案において品質重視、自社目線つまりプロダクトアウトな発想であり、『良いものを作れば、営業(交渉)はいらない』といった傾向が強いです。
しかし最近、ベンチャー系の勢いのある会社の営業マンと面会したり、zoomでミーティングをしたりすると、若いのに(もうこのセリフが出ることが時代遅れになっています。。。)その交渉力の高さに驚かされます。今回はその交渉力について、ビジネススクール時代に習った『ハーバード流交渉理論』に基づいて少しひも解いてみます。

ハーバード流交渉理論

交渉の意義とパターン

今回は、理論が中心となるので少し話が固くなるかもしれません。また今回は、ビジネススクール時代で習った時のノートや資料をベースに説明しますので、『Dグラントコンサルティング・椙山 智氏』の内容や英訳を、かなり引用致させて頂いております。何卒、ご了承ください。
その中でも、なるべくわかりやすい言葉にかみ砕いて説明したいと思います。まずは『ハーバード流交渉理論』において語句を整理しておきましょう。

□交渉【Negotiation】・・・その結果、発生するであろう価値(余剰)の配分取引である
□取引【Deal】・・・互いにそれをすることで得をする可能性が高まるから行うものである
□余剰分配【Surplus distribution】・・・一方が多くとれば他方は減る、決裂すれば両者とも得はなし

『交渉』とは単独で実現できない状態を実現させるために行うもので、『合理的に行う戦略』よりも『協調による戦略』の方が両者(社)の利得が大きくなる。

言葉だけだと非常にわかりづらいですね。簡単に説明すると交渉は2種類あって、自分の利益の最大化のみを考える(合理的)パターンと相互利益を考えながら進める(協調)パターンがあり、後者を選択して交渉に当たることが最もメリットがあります、ということを述べています。

この2つのパターンは下記のようにまとめられています。

①利益分配型(駆引き交渉)【ゼロサム交渉】・・・自社の利益最大化のみを考える
パイ(利益量)の大きさは決まっており、それを2社でどう分配するのか?といった交渉

②原則立脚型【Win-Win交渉】・・・相互利益を考え人と問題の分離
相互に納得できる価値の交渉に切替え、双方が一定量の満足を得られるようにする、またはパイ(利益)を大きくする提案をし、大きくなったパイ(利益)の分配を検討する交渉

交渉のパターン

ハーバード流交渉理論

2つの交渉パターンからハーバード流交渉理論のパターンを確認した上で、理論の『4つの原則』について理解し、自分でも交渉の中で意識して活用できるようにしていきましょう。

①第一原則:交渉では『人と問題を切り離せ』
交渉者同士の人間関係を形成するコミュニケーションを作った上で『解決すべき問題』『合理することによって目指すべき利益』重点を置いて交渉を進める

もちろん内容は理解できますが、日本人にとっては特に難しい部分です。時によっては交渉の利害よりも人間関係の方が重要視されたり、美徳になったりする日本では、第一原則だけは、バランスをとりながら交渉することが求められます。ただ、可能な限り人間関係を取り外した交渉に心掛けるようにしたいですね。(忖度が流行語になる国ですから)

②第二原則:交渉では『立場ではなく利害(インタレスト)に焦点を合わせよ』
立場は本人が達した主張の結論であり、利害はその結論を導き出した原因である。

立場とはタテマエ、利害とはホンネと置き換えるとわかりやすいですね。当然、本音の部分に焦点を合わせなければ交渉はうまくいかないです。これは容易に理解できます。

③第三原則:交渉では『複数の選択肢を用意せよ』
相手の要求とのGAPを埋めるのに力を注ぐだけではなく、本題の交渉とは別の選択肢も考慮し、他の選択肢の中で最良の選択肢(BATNA)を検討する。

これも比較的わかりやすいですが、考えだすことは容易ではないですね。ゼロサム交渉にならないように、価値の論点を変えたり、新しい提案(価値提供)をすることで、Win-Win交渉になるように交渉を導いていくことが重要です。日本では根回しと呼ばれるものです。

④第四原則:交渉では『客観的基準を強調せよ』
交渉者同士が納得できる基準を見つけること(前例、第三者意見など)また、この基準はたくさん用意しておいた方が良い。

以上の4つの原則、いずれも言葉では理解しやすい、当たり前のことが原則化されていますが、ついつい忘れがちになります。商談交渉などで行き詰まったときに、この4つの原則が守られているのか確認しながら交渉を見直せるようにしましょう。

BATNA(バトナ・Best Alternative to Negotiated Agreement

BATNAとは、交渉相手から提示されたオプション以外で、最も望ましい代替案のこと。通常、BATNAが交渉における限界値を決めることが多い。

ハーバード流交渉プロセス

ではこのパートでは、ハーバード流交渉理論において交渉のプロセスをどのように進めれば良いと説明されているかをご紹介します。

①PROCESS1:状況の把握と目標設定【Symptoms】
・交渉に必要なリレーション(人間関係)の構築
・事前準備によって解決すべき問題及び最終目標を設定する
交渉可能領域(ZOPA)の設定を検討
・案件の代替手段としていくつかの選択肢を挙げて最良の選択肢(BATNA)を探し出す
・事前では入手できなかったことをリストアップして訪問の中で確認していく

ハーバード流交渉理論 交渉プロセス1

②PROCESS2:交渉の『診断ポイント』を設定【Diagnose】
・交渉が難航している原因の分析
・人と問題が分離しているかの確認
・従来の解決策は、どこが悪かったかなど

③PROCESS3:交渉戦略の立案(効果的な合意形成の戦略)【Strategy】
交渉を相互理解の合意形成に導くための具体策・方法論を事前に検討し、交渉の進め方を策定する。

④PROCESS4:交渉のマネジメント【Specific Action】
相手との具体的な交渉の中で合意形成に向けての障害を取り除き、解決を目指すマネジメントを実施する。

交渉のプロセスの中では、特にPROCESS1の取り組みが交渉の中で最も重要なプロセスとなります。交渉理論は戦争であれば戦術です。綿密な事前情報の収集と勝つための手段をしっかりと見極める必要がある訳です。

ZOPA(Zone of Possible Agreement

ZOPAとは、交渉が妥結する可能性のある条件範囲のこと。価格で言うと、上限はお客様の気持ちが離れない価格になり、下限は自社が損をしないぎりぎりの価格ということになる。

さて、今回は事業を展開していくためには絶対に必要な交渉について、ハーバード流交渉理論を参考にして説明をさせて頂きました。交渉は社外だけでなく社内でも同様にあります。またお客様との交渉においては不測な事態が次々と起こります。
そのためには、ゼロサム交渉にならないように、交渉相手と価値をしっかり合意し、またそれでも交渉が難航した場合はハーバード流交渉理論であるBATNAをしっかりと準備をして慌てることなく自分が主導で進めていかなければなりません。

では、今回はこれまでです。ごきげんよう!

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