B to B系製造業のリカーリングビジネス検討【第96回】

サブスクアフターサービス

製品の販売量を拡大していくことがが難しくなっている現在、やはり『販売した製品からどれくらい収益を積み上げることができるか?』が製造業の大きなテーマです。成熟マーケットでは顧客数を増やすことよりも、顧客単価を高める政策が必要で、定期的に収益を積み上げることができるビジネスのリカーリング化は非常に重要な戦略となります。しかし世の中、サブスクリプションなどモノ売りからコト売りへの変化が加速していますが、製造業はなかなか、この波に乗れません。本日はこの製造業のビジネスのリカーリング化のポイントについて、わかりやすく説明したいと思います。
本トピックは私のブログでも頻繁に触れています。その中でもかなりしっかり書かれた回がありますのでリンクしておきます。(『製造業のサブスクリプションビジネスの可能性【第73回】』)

製造業のサブスクリプションビジネスの可能性【第73回】
通常業務の忙しさと、ブログ繋がりで新しい出会いなどもあり、かなり長い充電期間をおいてしまいました。しかし、モチベーションの高い人って本当にたくさんいるんですね。私も53歳ですが、日々勉強と再認識した1ヶ月でした。さて今回は、『新しい製造業...

リカーリングビジネスとは

リカーリングビジネスの定義

リカーリングビジネスとはリカーリング(繰り返し、循環)するビジネスモデルで、『製品を売って、その代金を回収する』という一過性のビジネスではなく、製品納品後もいろいろなサービスを提供し続けることで継続的に収益を上げるビジネスのことです。このビジネスはBtoCの業界では、いろいろな形態に派生しており、メジャーな商取引となっています。
良く、前者の一過性のビジネスをフロー型ビジネス、後者の継続的に利益を上げるビジネスストック型ビジネスなどと呼ばれます。リカーリングビジネスは、このストックビジネスとほぼ同義で考えて良さそうですが、特にお客様と何かしらの契約を交わすものをリカーリングビジネスとしているものが多いです。いずれにしてもお客さまとの継続的な取引がポイントです。

リカーリング(ストック)ビジネスの成功事例として、しばしばジレット社のシェイバー替刃のビジネスが紹介されています。シェイバー本体をタダ同然で販売(配布)し、シェイバーの替刃を定期的に購入させることで、本体の売上ではなく交換替刃で大きな収益を上げたリカーリングモデルです。
もちろん、お客様と契約を交わして替刃を購入してもらっているわけではありませんが、本体はジレット社の替刃しか取りつかない構造になっており、ジレット社のものを購入するしかない状況になっていますので、よく考えられたリカーリングビジネスです。
他にも、どこのオフィスにあるコピー機などのリカーリングモデル(XEROXモデルとも言われています)も秀逸です。
コピー機本体は比較的安価に提供し、その後、1枚コピーをするたびに課金(クリックチャージ)し、それ以外にもトナー代金や保守料金などを毎月回収していくことで、継続的な収益を上げるリカーリングモデルで、本体が市場に投入されればされるほど、リカーリングの部分の収益が累積で上積みできる、もっとも成功した事例だと思います。これは家庭用のインキジェットプリンタなどにも応用されていて、2万円そこそこの金額でスキャナなどの機能も装備されているインキジェットプリンタを購入してもらい、その後のインキカートリッジの販売で回収していくリカーリングモデルになります。インキのカートリッジで非常に高額ですよね。でもこれを買わなければ本体が使えないので購入せざるを得ない。なのにびっくりしますよね。
ちなみに、プリンタ保有期間内で概ね2回インキカートリッジを交換してもらえば、メーカー側は十分な期待利益が取れるそうです。

このリカーリング(ストック)ビジネスと似たように使われているものにサブスクリプションビジネスがあります。『サブスクリプション=定期購読』ですから、まず思いつくものは新聞や雑誌の契約です。歴史的にはジレット社の替刃ビジネスなどより、かなり昔から行われているビジネスモデルで、新聞や雑誌などだけではなく家賃や月極駐車場などもメジャーなサブスクリプションビジネスといえるでしょう。

このサブスクリプション継続的に収益を上げるビジネスモデルであり、そういう意味ではリカーリングビジネスの1つと考えます。(少なくても私の頭の中はそう考えています)
但し、そのリカーリングビジネスの中でも『製品の利用サービス一定額で使用できる契約』になっているものを『サブスクリプションビジネス』と定義していると考えたらよいのかと思います。

リカーリングビジネスの種類

ここまで話をしてきた通り、リカーリングビジネスは家賃や新聞など、非常に古くから行われているものから、動画配信やオンラインゲームなど最近のものまでいろいろな種類があります。
リカーリングによる製品購入の顧客価値は、以前はスポット購入の煩わしさの解消だったり、購入価格の抑制、また製品本体を安価に獲得できることなどが主流でしたが、最近では多様な選択性(動画・音楽配信や洋服・カバンなどのレンタル)や最新のものを常時利用(ソフトウェア、オンラインゲーム)できるなど『所有から利用』を意識し、よりサブスクリプション型(定額サービス)モデルが増えてきています。

また従来は定額化していなかったリカーリングビジネスサブスクリプション型に変更しているものも多いですね。コンタクトレンズの洗浄剤や、コミックの配信など従来は必要に応じて購入するといったモデルでしたが、月額の金額を決めて使い放題にするモデルも選択肢に増やしていくケースも散見します。比較的製品コストが安く、競合が多い場合では、競合をシャットアウトする意味でも有効な戦略だと思います。

リカーリングビジネスの事例

ここに挙げたもの以外でも、まだまだたくさんあると思いますが、ちょっと思いついたものだけ表にまとめてみました。こうしてみると、世の中はリカーリングビジネスだらけですね。

製造業のリカーリングの可能性

LTV(Life time Value)とは

さて、そろそろ製造業に内容を絞り込んでいきましょう。製造業にとってリカーリングビジネスを拡大したい理由は、大きくわけて下記の2点です。

(1)本体売上の落ち込み回復
(2)月次売上高の均一化(予算化)

BtoB系製造業は、景気の動向に売上が大きく左右されます。また冒頭からお話している通り、既に成熟しているマーケットで戦っていることが多いのです。必然、製品の売上は落ちる一方になりますので、不足した売上を補うとなれば当然、納入済みの機械からどのように売上を上げていけば良いのかが大きな目的になるのです。
またこれもBtoB系製造業の特徴になりますが、製品が比較的販売価格が大きく、決定まで長時間かかります。すると毎月の売上が大きい時と小さい時では倍以上の違いが出てしまうことも多いのです。リカーリングビジネス比率を高めることで、この月次の売上額のブレを小さくするという狙いも重要な目的になります。

売上= 客数 × 客単価

ちなみに、1社(または一人)のお客様と自社が取引を開始してから終わるまでに、そのお客様がどれだけの収益をもたらしてくれたのか、といった指標をLTV(Life Time Value)といいます。日本語では『顧客生涯価値』と訳されますが、文字通り、LTVとは顧客から得られる利益の総額のことを表します。
ここではリカーリングビジネスが売上にどれくらいのインパクトを与えるのか、事例を使って説明したいと思います。
たとえば、1台5万円のインキジェットプリンタの本体販売だけをしている会社と、プリンタと1個5千円のインキカートリッジの両方を扱っている会社を比較してみます。

①インキジェットプリンタ本体価格 :¥50,000/台
②インキカートリッジ価格:¥5,000/個
※試算として購入した年は1個、その後、平均2個のカートリッジを購入するとします。

1年目2年目3年目4年目5年目5年TOTAL
本体
販売台数
500台500台500台500台500台2,500台
本体
売上高
\25,000,000\25,000,000\25,000,000\25,000,000\25,000,000\125,000,000
カートリッジ
販売数
5001,000+5002,000+5003,000+5004,000+50012,500
カートリッジ売上高\2,500,000\7,500,000\12,500,000\17,500,000\22,500,000\62,500,000
売り切り型とリカーリング

上記の通り、製品本体のみを販売したA社と、カートリッジまで販売しているB社とでは、5年間で\62,500,000の売上差が出ます。注目すべきはカートリッジの売上です。初年度こそ、500台の本体販売に対して、インキカートリッジは同じ個数の500個しか売上できませんが、2年目からは前年の販売台数500が基礎数字になり、その年の販売台数500が加わるため、設置台数は一気に倍1,000になり、売上は前年比3倍にもなります。5年目にはそれまでに納品した400台が基礎数字になるので、B社はリカーリングモデルによってA社よりも \62,500,000の売上を拡大したことになります。
また、このケースは消耗品をキーにしたリカーリングモデルがですが、消耗品は本体よりも粗利率が高いケースが多いです。これにより、営業費をさほどかけることなく利益率を大幅に高めることも可能となります。
また5年目の数字を再度、見て下さい。本体売上 \25,000,000に対して、カートリッジの売上は\22,500,000です。本体の売上は翌年も同じだけ販売できる見込みはありませんが、カートリッジの売上は確実に\22,500,000以上計上できることが判断できます。つまり、新しい年度が始まるときに既に\22,500,000の売上が担保されているということになります。これが月次売上高の均一化にもつながるということです。

BtoB系製造業のリカーリングビジネス

BtoCの業界の成功事例を参考にすれば、BtoB系業界でも、かなり有効に活かせるビジネスモデルだと考えられます。しかしながらBtoB系製造業が、このビジネスを上手く行えない理由はどこにあるのでしょうか?
こ一つの要因に、製品が売れていた時代に築いてしまった製品売上至上主義、つまり全てのリカーリングビジネスに繋がりそうな付加サービスを、既に製品販売のために無料で提供してきてしまったというところがあります。製品が売れるのであればなんでもサービス(この意味のサービスはタダでという意味合いが強い)してしまっていた日本の製造業は、まずその市場認識を変更することに相当な労力を割かなければならないでしょう。
またリカーリングビジネス量に効いてくるビジネスモデルです。大量の利用者がいて、原価が安くなってくるのですが、残念ながらBtoB系製造業のお客様は多くて1万、少ない会社では1,000程度です。これでは、なかなか量に効いてこないのです。
更にリカーリングビジネスを検討していて大きな壁にぶつかってしまうのが、リカーリングの価値を受ける人リカーリングの代金を支払う人が違う場合が多いことです。BtoC企業が提供するリカーリング商品は購入者も利用者も全て同一人物ですが、BtoB企業の場合は、価値を感じる人は機械を操作するオペレータ、お金を支払う人は経営者のようになります。そのため商品の価値は認められても購入決定に結びつかないことが多いのです。

これらの課題点を考慮して、BtoB系製造業では、どんなリカーリングビジネスが展開できるでかを、幅を広げて検証してみましょう。

BtoB系製造業の製品の場合、本体のみのリカーリングはリース契約とあまり変わりがありません。最近では車のサブスクなどがありますが、これは税金維持費(車検やメンテナンス)が一緒になっており、お客様の支払いの面倒を解消することが価値になっています。また、契約満了時の残価(下取り価格)総支払額から差し引かれており、通常の購入よりもかなり安く車に乗ることができます。
このリカーリングモデルができれば、契約満了後にもう1回、その製品を他のお客様に販売することができるので、非常に利益率の高いビジネスモデルになります。
このビジネスをもっと短期間で行っているのがレンタル契約になります。BtoCの世界ではかなり死語になっていますが、CDで考えれば、\3,000程度で購入したCDを1日\300で貸す、いわゆるCDレンタルです。10回借りられれば原価が回収され、11回目からが粗利になってきます。BtoB系製造業の製品も1日とは言わなくても季節要因やお客様の繁閑要因などで貸出することができれば、本体のみでリカーリングモデルが作れるでしょう。建機や農機のレンタルなどは、このモデルに近いです。
この場合の問題点は貸出している製品の資産を自社で持たなければならないこと(オンバランス)になります。契約件数が増えると自社の資産が膨らみ、財務面に影響を与えます。また貸出していない時期は当然、コストだけが発生することになります。更に大型の製品の場合、一時的な置き場所や運搬費などのコストもかかってきます。

1回設置をしたら、なかなか動かせない製品や、長い期間使用する製品(工作機械や食品機械など)の場合、本体だけでリカーリングモデルを創ることは難しくなります。特に長期間(7年以上)使用するものはリカーリング化すると、単純計算だけで損をすることがわかるのでお客様の価値に繋がりません。
この場合はコピー機などのビジネスモデルである消耗品や保守メンテナンス作業リカーリング化することがいいでしょう。
製品本体がコストの安いものであれば原価程度で本体を販売することで、オンバランスの問題は解消しますし、お客様も安価に本体を購入できるので非常に価値を感じてもらえます。その後、消耗品保守メンテナンス作業リカーリングモデル化することで利益を拡大していきます。この場合のポイントは消耗品が独占できることと利益率が高いこととなります。
課題は製品本体のコストが高い場合です。この場合、製品本体はどのように提供(マネタイジング)するのかが大きな問題です。BtoB系製造業の製品は1台ずつ製造コストが発生します。スマホの通信インフラなどとはだいぶコスト構造が違うのです。特に前述の工作機械や食品機械は億を超えるものも少なくありません。この本体の価格をどのように短期間で回収していくのかは、課金設定を考える意味でも最大の課題となります。もちろん、この場合も自社で資産計上しなければならないのでオンバランスの課題も残ります。

また、稼働に応じた課金もチャレンジする価値のあるビジネスモデルだと思います。これは『稼働していない時は基本料金のみを支払い、一定量を超えたら稼働量に応じて支払う』といった従量課金型のリカーリングモデルです。稼働しているということはお客様も仕事があるわけですから、比較的、お客様から同意を得やすい提案となります。
ポイントはWinWinになる価格設定を考えることです。これには、お客様の稼働状況を綿密に調査し、最低価格(基本料金)設定とそれを超えた場合の単価設定(従量課金)、更に稼働量が増えた時の増加割引上限価格設定など、スマートフォンの通信料のような細かな価格設定の準備が重要になります。これを間違えてしまうと、全く利益の上がらないビジネスになってしまいますし、自社の利益を優先しすぎるとお客様にとってまったく価値のないものになって採用されなくなってしまいます。

このようにBtoB系製造業リカーリングモデルを考える場合、製品本体の処置クロスセルさせる付属サービスをお客様としっかり握れるビジネススキームを考えることが非常に重要になるのです。

1.本体を軸にしたリカーリング
①レンタル型リカーリング
②本体+消耗品のリカーリング
③使用量応じたリカーリング(従量課金)
2.保守/保険
①夜間/休日サービスや優先対応リカーリング
②修理費・定期メンテナンス保証のリカーリング
②重大事故保険リカーリング
3.消耗品
①消耗品のリカーリング(専用化)

これらのリカーリングビジネスの発想はアップセル・クロスセルの考え方に非常に似ています。過去の投稿でも少し触れていますので、良かったら一緒に読んでみて下さい。『アップセル・クロスセル【第58回】』

アップセル・クロスセル【第58回】
前回、アンゾフの成長マトリックスを説明しました。現在、日本のBtoB系製造業は成熟したマーケットで苦戦を強いられています。そのようなマーケットの中で事業を成長させなければならない中、アンゾフの成長マトリックスは非常に活用できるフレームワー...

さて、今回はいかがでしたでしょうか?自分の実体験から、可能な限り具体的な内容で投稿させて頂きました。私自身も、なかなか巧妙なリカーリングモデルが作れていませんが、BtoCの業界で行われているビジネスをベンチマークして自社のビジネスに落とし込んでいくことを繰り返すことで、自社に最も合ったリカーリングビジネスを完成することができると思います。また、今後は製品開発段階からリカーリングビジネスを前提とした商品企画をする必要があると考えます。
リカーリングビジネスは開始1年、2年では大きな成果は生みません。年度が始まった段階で売上の50%はリカーリングビジネスからの収益があがるようになるために、少しでも早くビジネスを始めることが肝心です。では、今回はこれまでです。
また、次回、ごきげんよう!

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