イノベーションのジレンマ【第74回】

ジレンマ営業戦略

BtoB製造業がぶつかる大きな壁、これがまさに新規事業展開です。製造業は開発部や大きな生産工場を持っているため、なかなか新規事業に乗り出すことを苦手としています。
しかし、成熟市場の中で、既存製品の改良だけで生き抜いていくには限界があります。そこで新規事業展開です。前回の投稿『製造業のサブスクリプションビジネスの可能性【第73回】』でも説明した通り、BtoCの世界では大きく拡大されているビジネスのサブスク化なども新規事業展開には欠かせないアイテムですが、今回は、ハーバードスクールのクレイトン・クリステンセン教授の『イノベーションのジレンマ』を取り上げて、語句を整理、解説するとともにBtoB製造業のみなさんに新規事業に向かうためのヒントになればと思って記事を書かせて頂きます。
前回の投稿もリンクしておきますので、是非一緒に読んで頂けたらと思います。

製造業のサブスクリプションビジネスの可能性【第73回】
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製造業の新規事業展開

イノベーションのジレンマとは

『イノベーションのジレンマ』とは、前述の通りハーバードビジネススクールの教授で、経営学者クレイトン・クリステンセン氏の著書で、日本でも相当読まれている書籍ですし、ビジネスマンであれば、本や読んでなくてもほとんどの人が聞いたり、または関連の書籍から触れているのではないかと思います。

私は、この言葉に最初に触れたのは、ビジネススクールの先生から『ソニーのウォークマン事業とAppleの i-Pod事業の争い』を習った時でした。
Appleのi-Pod/i-Tunes が世の中で成長している時に、対抗するSonyのWALKMAN事業部の技術者はは、自社のポータブルミュージックプレイヤーをいかに軽く、いかに長時間再生でき、いかに音質を上げるかを論議していたという話です。実話なのかは定かではないのですが、ビジネススクールの先生から習ったこととして、今でもイノベーションのジレンマソリューションビジネスを説明する上で、好例として活用しています。
i-Podが登場するまで、音楽を聴きたい時にはCDを購入する、またはレンタルして聞いたり、また聞きたい曲だけを集めたい時などは、複数のCDからMDやMP-3プレイヤーといったデジタルメディアに音楽ファイルをレコードしてお気に入りを作ったりしたものです。
基本的には誰でもそのスタイルだったので、出先で音楽を聴きたい時は、いかに高音質で、長時間再生ができて小さくて軽いものを選んでいました。上記のSonyのWALKMAN事業部の技術者が達成しようとしていたことは、ミュージックプレイヤーのメーカーとしては間違いない行為です。
クリステンセン氏はこの技術的な更新を『持続的イノベーション』と呼んでいます。今日、特にBtoB系製造業は、この『持続的イノベーション』を続けていくことで、変化する市場他のライバル企業と生き残り競争をしてきたのです。

では i-Podとは何者でしょう?おそらく、Sonyからしてみれば、ちょっとデザイン性の高いPCメーカーが突如音楽プレイヤー市場に参入してきたという感じだったのでしょうか?
ところがその製品の特長は、音楽を1曲単位で、しかもダウンロード方式なので、通学で電車に乗っている時でも、夜中の寝静まっている時でもクリック一つ(当時はi-Tunesの扱いがやや面倒くさかったですが)で購入できる画期的なものでした。この i-Padの魅力は、瞬く間にポータブルミュージックプレイヤーのゲームチェンジをしてしまいました。
これがクリステンセン氏が言う『破壊的イノベーション』です。
i-Pod登場以前、音楽を得るためにはCDを購入するしかありませんでした。そのためアルバムの中の好きな曲1~2曲を聞きたいだけでも \3,000程度のCDを購入するしかありませんでした。また購入するためにはCDショップに行かなければならなく、仕事終わりだとお店がしまっていることもしばしばでした。このような顧客の欲求に対し、プレイヤーメーカーも、ダビングが簡単にできることや軽くて使い勝手の良いプレイヤーを開発していくことは必然でした。(『持続的イノベーション』
ところがミュージックプレイヤーという製品にイノベーションが起きたわけではなく、音楽の購入の仕組みが変えられてしまったのです。Sonyからしてみれば、まさに『破壊的なイノベーション』が起こったわけです。

クリステンセン氏の理論は、『市場優位を持っている会社は、その成功が原因で既存の製品改良にのみ力点がいってしまい、新規市場が発生した場合、事業展開に遅れをとってしまう傾向がある』ということです。そして、今日、事業が停滞しているBtoB系製造業も、これに陥っているのではないかと考えいます。

イノベーションのジレンマを乗り越えるには

クリステンセン氏は市場優位を持っている会社(大企業)がどうして、このジレンマに陥ってしまうのかを下記5つの原則で説明しています。つまり、この5つへの解決策が、『破壊的イノベーション』に対処する、または自社が新しいマーケットを切り開く新規事業に繋がるヒントになるのではないではないかと考えます。

①企業は顧客と投資家に資源を依存している
成功している企業ほど、既存のお客様株主への期待を高めなければなりません。それは結果、短期的かつ安定的な収益を上げることで、初めのうちは利益を出しづらい新市場に進出したり、資源を投資することが難しくなります。

②小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない
大企業はその会社を維持するために大きなマーケット大きな売上・収益確保しなければなりません。新興企業がイノベーションを起こしている初期段階では、まだ市場規模が小さく、参入の価値が認められません。

③存在しない市場は分析できない
大企業は既存市場を分析することで、戦略を立案し、製品開発、販売に繋げていきます。そもそも、自社が気がついていない市場については分析のしようがありません

④組織の能力は無能力の決定的要因になる
既存事業しか考えられないメンバーがどれだけ集まっても、それは既存事業の深化に繋がりますが、新規市場や、新事業については考える能力(適正)は圧倒的に不足してしまいます。

⑤技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない
既存技術を高めていっても(つまり『持続的イノベーション』)市場ニーズが常に技術機能の向上で満たされるわけではありません。

上記を簡単に要約すると、『大企業、特に現在マーケットである程度のシェアを獲得している企業は、安定した収益を確保することが優先事項となり、既存顧客・マーケットのみに資源を投入し、既存大口顧客のニーズを満たすためだけの製品技術向上コスト対策に注力してしまいます。その結果、別の顧客層が持っている別の需要に気づくことができず、全く異なる次元からきた新興企業の技術革新によって敗北する』ということです。

ここまで書けば、大企業が取るべく戦略は自動的に見えてきますね。現在の成功している事業やマーケットにあぐらをかかずに、自社の資源をふんだんに使える好調な時こそ、本腰を入れた新規事業新マーケットの検討を進めていくことです。

①新製品・サービスの開発
・既存の製品を今までとは全く異なった商流、販売方法で顧客に届ける方法の検討
②新市場への参入
・既存のコア技術を活用して全く新しい市場を創造できる製品・サービスの開発
③新組織の創造
・上記①、②だけを検討する単独組織の編成

まさに『アンゾフの成長マトリックス』を活用した実践ですね。

アンゾフの成長マトリックス
アンゾフの成長マトリックス【第57回】
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但し、実際に企業の中にいると、この新規事業を進めていくのは非常に困難なことがわかります。
私も8年前に、営業の責任者からソリューションビジネス推進部へ異動となり、製品軸、サービス軸でいろいろな新規事業の立ち上げに関わってきました。
なかなか新しい製品開発や新市場が見つけられないことに不安は募るのですが、それよりも周りの部門からの冷ややかな目に立ち向かうのが大変でした。
まだまだ、既存事業も成長傾向(実はグラフでいえば下を向き始めた時期)だったので、ソリューションビジネスや新規商品開発などは『それは年間どれくらい売上がるのか?』、『そんな製品売る暇がない』、『もっとお客様に訴求する資料はないのか?』と、ついこの間まで同じ部署で働いていた営業からもネガティブな発言を受けました。
これは過去の投稿でも何回か指摘していることですが、新規事業に近道はありません。もし、あなたが社長や上席役員であれば、新しいことを創造する組織には、ある程度の時間軸上司の許容別枠の評価を必ず、するように心掛けて下さい。

さて、今回はいかがでしたでしょうか?企業30年説、つまり企業は30年に1回、革新的なイノベーション製品を出していかないと倒産してしまう、という説ですが、最近ではこれが15年に縮まっているとも言われています。
2000年ごろまでは製品性能(主に破壊的な価格)が起因で大企業・事業部が消滅の憂き目にあっているシーンを見てきましたが、最近では『破壊的なイノベーション』が起因で、わずか数年の間にゲームチェンジが行われることも極めて多くなっています。例えばCDから音楽ダウンロード、ガラケーからスマートフォン、デジタルカメラから携帯カメラ、天下のトヨタ自動車ですらエンジン駆動から電気駆動、また人間操作から自動運転と『破壊的なイノベーション』に対し、対応を余儀なくされています。
指示型のマネジャーが多い日本の企業において、今イノベーター型のリーダーが最も必要とされているのではないでしょうか?
では、今回はこれまでです。また、次回ごきげんよう!

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