1年少し前からアフターサービス部門の責任者となった訳ですが、製造業のアフターサービス部門というのは、以前は販売部門のおまけのような部門で、販売した機械が壊れた時に、迅速に駆けつけお客様の生産に影響なく対応してくれれば良いといった部門でした。サービス部という名前がついていることからも、売上や収益を上げていくというより顧客満足を高める販売部門のサポート的な要素が強い部門です。
しかし、業績が良い会社はいずれもこのアフターサービス部門での売上、収益が大きな会社です。
今回は製造業のアフターサービスはどうあるべきかについて製造業目線で説明していきたいと思います。
アフターサービス部門の役割
アフターサービスの特徴
これまでのアフターサービスの特徴は『壊れたら修理する』といういわゆる受け身のスタイルです。製造業のバリューチェーンの中では、このアフターサービスは最後の部分ですが、残念ながらBtoB系製造業、特に産業機械メーカーなどでは、このサービスバリューは付け足しのようなものであり、一部の企業では代理店や販売子会社に任せてしまっている例もあります。
過去の投稿で何回も指摘している通り、先進国ではほとんどの製造業(産業機械)のマーケットが成熟化しています。
マーケットが成熟すると、モノが余り、製品が同質化(コモデティ化)します。
つまりマーケットが製品を欲していないため、『製品の性能』よりも『製品の価格』で選ばれるようになってきます。このような顧客要求の変化は日本の製造業が最も得意としていた刷り合わせ技術による製品性能の良さや、日本人ならではの品質が競争力にならなくなり、アジア各国の安価な製品に置き換えられていきます。
つまり、これからの製造業は、上のバリューチェーンで言うと『購買物流』や『製造』でのバリューではなく、もっと下流の『販売・マーケティング』や今回のテーマである『サービス』のバリューで戦っていく必要があるわけです。
これからのアフターサービス部門の役割
前述してきた通り、製品の性能や品質が、購買の決定要因になっていないということは、製品単体での売上、収益は間違いなく落ちます。
そこで活かさなければいけないのがマーケティング力とアフターサービス力です。マーケティング力については過去の投稿で相当説明していますので、詳細はそちらに譲りますが、製造業はプロダクトアウトの発想を大きくチェンジをして、お客様の課題を起点にしたマーケットインの発想で、製品の性能よりも販売方法(マーケティング)で勝負をしていくことです。マーケティングでいえばSTPと4Pを明確にしていくことです。
マーケティングについては過去にいくつも投稿していますが、手始めに『実践的な事業戦略の立案方法【第19回】』などから、いろいろと閲覧してみて下さい。
BtoCの製品では、すでにこの製品のコモディティ化は急速に加速しており、製品性能・品質に頼らないビジネスがたくさん出ています。
Appleのi-Phoneで考えれば一番わかるのではないかと思います。i-Phoneは端末そのものの販売だけではなく、むしろ購入後の売上、収益がはるかに大きいです。App-Storeでの手数料やApple Music、AppleTVなどサブスクリプション収入などもそうですね。端末を販売した後にクロスセルで数倍、数十倍の収益を上げています。
これをBtoB系製造業で応用しようとした場合、納入後の製品をメインに扱うアフターサービス部門が大きなポイントを握ることになります。納入した製品に対して『壊れたから修理をする』だけではなく新しい能動的なサービス、つまりSolution型アフターサービスが今、必要とされています。
クロスセルについては『アップセル・クロスセル【第58回】』も読んでみて下さい。
Solution型アフターサービス
日本の製造業のアフターサービス
ちなみに現地法人に対して、サービス部門の説明をする時に『After Sales Service』と訳さないと良くわからないようです。これはたまたまかもしれませんが、日本では『サービス』、海外では『アフターセールス』と修理や保守メンテナンスの考え方が大きく違うのかもしれませんね。
日本では修理や保守メンテナンスは無料という意味合いの『サービス』に近く、世界的に見ても手厚いサポートを安価に行っているところが多いです。
24H、土日対応、即日訪問などは日本では当たり前ですが、海外ではほとんどありません。またこのようなサービスを提供する場合は、かなり高額な請求が来ることが多いです。
しかしこういったサービスを変更することは容易ではなく、サービス対応力の低下が製品の販売に大きく影響することは少なくありません。
では、どうのようにSolution型アフターセールスにしていけば良いのでしょうか?
そもそも、上記のような手厚いサービスを提供することが大変なのは、時間や曜日の問題ではありません。いつ呼ばれるかわからない状況で待たなければならないため、対応要員をかなり余分に確保しなければならないからです。
平均で20件呼ばれるアフターサービスを対応する時に当然、10件の時もあれば30件の時もあるでしょう。フルにサポートするためには30人の人員を用意しなければなりませんが、それでは10件の時は20人を遊ばせてしまいます。
これを無駄なく調整するのは至難のワザで、サポートする台数が多いメーカーはフリーランサーや契約社員で調整します。
しかし、このような調整を続けていたら、いつまでたっても問題は解決しないでしょう。またフリーランサーを使えばコストは高くなり収益にも影響を与えます。また作業者の質を上げるための教育にも費用と時間がかかります。
一般的に作業者の稼働率(出張する率)が60%を超えるとお客様からのクレームが急に増えるというデータもあり、いつまでも余分な要員を持ち続けることになってしまいます。そのため、アフターセールスのビジネスを拡大していくためには長期的に安定した収益がキーになります。
製品販売後に考えられるのアフターセールスのメニューには下記のようなものが考えられますが、長期的に安定した収益を上げられるものとして②の消耗品販売と③の保守点検(定期的な)が代表的です。
④稼働のモニタリングは最近ではコマツやGEが事例として出てくるIoTクラウドを活用した新しいサービスです。
次章では、この②消耗品販売、③保守点検(定期的な)についてどんなアフターセールスがあるのかを見ていきましょう。また、これからのサービスである④についてはこれからのトレンドなので、別の機会に単独で投稿していきたいと思います。
①製品の据付・調整
②消耗品の販売、部品の交換や修理
③保守、点検作業
④稼働のモニタリング(最適生産の支援、予兆保全、機械稼働保証)
⑤リース、保険
⑥顧客リレーション構築
消耗品ビジネス
アフターセールス部門が扱う消耗品ビジネスには消耗パーツとSupply品があると思います。消耗パーツは自社の機械に装備されているもので、定期的に交換が必要なものです。大部分が供給メーカーの専用パーツであり、競合相手が無く最も収益性の高い商品です。
但し、交換頻度が多かったり、価格が高かったりすると本体製品の販売にも影響を与えてしまうこともあるのでプライシングには戦略が必要です。
週ごとに交換が必要な高頻度消耗品はなるべく利幅を少なく、逆に2年に1回程度の交換が必要な低頻度消耗品は利幅を大きくが原則です。
これによってよく交換する部品で『低価格のイメージ』を持ってもらい、めったに交換しない部品でしっかりと『利幅を稼ぐ』プライシング戦略が効果的です。
一般的に低頻度の交換部品は単価が高いものが多く、ここでしっかりとした利益を確保できることで在庫リスクを担保しながら消耗品パーツの販売がで
Supply品は自社の機械に装備されているものではなく、機械が製品を創り出す過程で使用する消耗品(Supply)のことです。業務用クリーニング機械でいえば洗浄剤とか柔軟剤とか、印刷機械でいえばインキとか用紙ですね。
これは自社の機械の特性にもよりますが、供給することができれば、かなり安定した売上に繋げることができます。自社の消耗パーツとの違いは、デイリーの売上を上げることができ、安定かつ大きな売上を確保できることです。
その反面、競合も多く消耗パーツに比べると収益率が悪いのも特徴です。メーカーであれば、機械と組み合わせたSupply品の開発が収益の確保には大事なファクターになります。
例えば、自社の機械の稼働に最もマッチングした性能を持たせるとか、特別の容器で供給することで、自社の機械にしか補填できなくしてしまうなどです。
定期保守ビジネス
定期保守ビジネスは結構古くからあるビジネスモデルです。ボイラーやポンプなど壊れると非常に大きな修理額になる産業機械は、月々の保守費用を徴収することで、メーカー側が毎月点検・保守を行い、万が一大きな故障があっても、その保守費用の保証内で修理するというものです。
このビジネスは、メーカー側から見ると、毎月一定額の収入があり、大きな故障がなければ、そのまま収益に繋がるビジネスです。また機械の状態をメーカー側が常に監視できるので自社の努力で修理を減らすことも可能です。
またユーザー側にとっても、一定額の支払いで万が一の事故に備えることができ、また日々もメーカーの手厚い保守を受けられるのでWin-Winのモデルと言えるでしょう。
また定期保守ビジネスはクロスセルの提案がしやすく、提供するサービスを拡大することができます。身近なところでいえばオフィスに1台はあるコピー機などは、一定額の保守料金を支払うことで故障時の修理、カウントの確認、トナーの供給(トナーは別料金のメーカーもあるが)などを保証してくれます。また、コピー機をインターネットにつなぐことで不具合の遠隔修理や、使用量の分析などの追加サービスも受けられます。このようにベースになる保守料金から追加のサービスに派生させていくことが可能なのも定期保守ビジネスの魅力です。
①契約者限定追加サービス(定期保守契約オプション)
・夜間対応オプション
・優先対応オプション
・休日対応オプションなど
②保守契約範囲の拡大
・標準保守以外の装置の拡大保証オプション
・消耗パーツやSUPPLY品の供給オプション
・操作指導や教育オプションなど
③性能保証契約・・・別投稿で特集予定
・月間の生産量を保証し、追加生産分へのインセンティブ(IoTを活用した新しい保守)
今回、ご紹介する本は少し考えたのですが、アフターセールスサービス関連の本ってあんまりないですし、私も持っていません。(雑誌の記事などではコピーが結構あるのですが)そこで今回はリカーリングの代表であるサブスクリプションについて書かれた本をご紹介しておきます。
『サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方(2017年アン・H・ザンジャー氏著/小巻靖子氏訳)』代表的な話が多いのですが、自社の仕事に流用できないのかを参照するのに役立つと思います。
さて、今回はいかがでしたでしょうか?まさに今実行しているビジネスが下敷きになっているので、リアル感が伝わったのではないでしょうか?
今回、投稿した通り、製品の販売数が頭打ちになった時に、新しい製品があるのであれば問題ないですが、しばらくその製品で戦わなければいけないのであれば、アフターセールスは非常に強い商品となります。このアフターセールスをリカーリング化できれば、安定的に高い収益を上げつつ、お客様に対しても満足のいくサポートができるようになります。まさにWin-Winですね。
では、今回はこれまでです。また次回、ごきげんよう!
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