日々、仕事をしていると戦略という言葉は非常に良く使われます。会社全体の経営戦略、各事業の方向性を指し示す事業戦略、それ以外でもいろいろなチームが何かの目標達成を計画をすると、この戦略という言葉を使いますが、この戦略が、戦略としてしっかりと機能しているものは比較的少ないように思われます。あなたが立案した『戦略』も会議の報告だけに使われ、実際の業務進行は肌感だけで進んでいたりしていないでしょうか?
また『戦略立案』などという使命を与えられると、ついつい構えてしまう人もいます。『戦略』とか『戦術』などは、いろいろな経営学者が、さまざまな切り口で理論化しているので、あんまり参考にし過ぎると、目標すら見失ってしまうこともあるのです。今回は、『戦略立案』の公式のようなものをマーケティングの理論をなぞりながら、なるべく簡単に説明していきたいと思います。
BtoB系製造メーカーの戦略立案
事業のミッション
どのようなシチュエーションにおいて戦略が必要になるかで『戦略立案』の仕方は変わるのですが、この戦略をブラさないために、まず『事業のミッション』を定めます。
この『事業のミッション』とは『この事業は、いったい何のためにやるのか?』ということを明確に表した言葉になります。そしてこの『事業のミッション』と対になるのが『ビジョン(あるべき姿)』の設定です。この2つの言葉の関係は『事業のミッション』⇒『ビジョン(あるべき姿)』です。
ある目的のためにやったミッションの末、自社はこんな姿になりましたという流れになります。これを最初に設定をしないと、戦略が形だけのものになってしまう危険性があります。
このミッションとビジョン、これ以外にもパーパスとかバリューと言う単語は、状況によっていろいろな意味で用いられます。あまり言葉に惑わされずに『なんのためにやるのか?、そしてその結果何を生み出すのか?』というものを戦略立案の前に必ず設定することです。
尚、ミッションとビジョンについては過去の投稿『強い組織の作り方~ミッションとビジョン【第82回】』の中で詳しく解説していますので、こちらもよろしければ一緒に確認してみて下さい。
例えば『製品A』が販売不振に陥った時、良くあるのは『製品Aのコストダウン戦略』などというものをいきなり立案してしまいます。するとコストダウンだけが目標になり、結局できた製品はお客様はおろか、自社の営業マンも必要ないものになってしまうこともあります。
ここに『メンテナンスのクレームが多い製品Aのメンテナンス箇所を半分にしてお客様の労働時間を半分にする』というミッションを置き『その結果、製品Aの販売価格を20%UP、販売量を1.5倍とし、営業利益として1億円を達成する』とあるべき姿を設定した状態で戦略を達成するための手段(戦術)やスケジュール感、リソースがはっきりし、実行性のある戦略展開ができるようになるのです。
環境分析(外部環境分析・内部環境分析)
どんな事業戦略やマーケティングの本を読んでも最初にやることとして、必ず書いてあるのが環境分析です。一応、私のブログはビジネス系のブログなので教科書的なことから説明しますが、外部環境分析は広いところ(マクロ環境分析)から徐々に範囲を狭めて(業界分析)進めます。
マクロ環境分析で有名なフレームワークはPEST分析ですね。P(政治)E(経済)S(社会)T(技術)の頭文字をとってPEST分析と呼ばれ、マーケティングの神様・コトラーが提唱したものとされています。私はこのPEST分析など外部環境分析のフレームワークが重要なことを理解していますが、正直、解説書に掲載されているフレームワークは気持ちいくらいマッチしてますよね。でも、実際に自分で使ってみると分析に活用するというよりは、周知のことをフレームワークに貼っていくだけで、フレームワークから何かが見えてくるなんてことはほとんどないんですね。
特にBtoB系の製造メーカーは対象が一般消費者でないため、対象とするお客様の数が多くても10,000社、だいたい3,000社ぐらいではないでしょうか?
BtoB系製造業は、日用品とか食品のようなコモデティ製品とは違い、むしろフレームワークにこだわりすぎず、メガトレンドやハイプサイクルなどに対して感覚で捉えている仮説を列挙し、列挙した中から優先順位をつけるような分析方法が良いのではないかと考えています。
もちろんフレームワークを使用して分析できれば、それの方がはるかに価値があります。また、仮説型分析の欠点は、声の大きなリーダーが自分の信じている仮説を展開し、明らかに間違った環境分析にも関わらず、誰も反対することなく事業が進んでしまうなんてこともありうるので注意が必要です。
メガトレンドはWEBで検索をすれば、だいたい似たようなものが出てきますが、人口動態や環境トレンドなどですね。また技術的トレンドはハイプサイクルなども活用できます。ハイプサイクルはガートナー社が毎年発表している特定の技術の成熟度・採用度・社会への適用度を示している2字曲線図で、次世代の技術革新の進捗具合を知る意味で非常に役に立つものです。
BtoB系製造業の場合、重要なのは業界環境分析です。この分析の王様は3C分析です。顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の頭文字から取って3C分析と呼ばれ、日本の大前研一氏が唱えたフレームワークです。
このフレームワークを上手く活用するためには、先ほどのマクロ環境分析とは逆で徹底的な事実の分析が必要です。なるべく感覚で捉えていることを一度外し、客観的にデータから分析していくことが成功の秘訣です。自分たちも想像していなかった思わぬ打ち手を見つけることができれば大成功と言えるでしょう。
3C分析や5Force分析といった業界・社内環境分析も分析するだけでは意味がありません。これらで最終的に導き出さなければいけないものは『競争優位点を見つける』ことです。よくバリュープロポジションなどとも呼ばれます。分析をした結果、打ち手が競合と一緒だったり、今までと何も変わらないものを考え出しても戦略に落とし込むことはできません。企業の戦略は自社の製品を今より売るための作戦プランです。3C分析であれば、3つの切り口から差別化ポイントをどこに創り出せるのかをデータから分析できるまで切り口を変えながら進めることです。
事業のミッション(事業ドメイン)
環境分析が完了し、いよいよ戦略を立案していきます。本稿の一番最初に設定した事業のミッションが事業(製品)の目的となります。常にこの事業ミッションを一番上に置いて考えると、戦略にズレが無くなります。また良くこれを事業ドメインという言葉でも表現されます。
事業ミッションからズレが無いように、環境分析で発見した競争優位ポイント(バリュープロポジション)を戦略に落とし込みます。競争優位ポイントを戦略に落とし込むときの考え方は主に2つです。一つ目は競合製品と圧倒的な差を作ること、そしてもう一つは競合しない状態を作ることです。もちろん簡単なことではありませんが、ここが決まっていなければ戦略になりません。戦略とは『敵に対して1%でも競争優位を作る』ことに他なりません。
戦略プランの進め方
では、具体的な戦略、並びに戦略に対する戦術を決めていくにはどのように進めればよいでしょうか?これは完全にオリジナルですが、私は下の図のように考えています。
ターゲットはどれだけあるのか?(STP)
戦略が決まったら、今度は具体的に売り先を決めていかなければならないですね。マーケティング用語でいえば基本戦略を立てるパートです。ここはやはり教科書的な道筋をしっかりと踏襲することが重要ですが、、セグメンテーションとかターゲティングとか、なんとなく似ててわからないという方もいらっしゃいますよね。実際に教材などで取り上げている事例は、非常に明確なケースが記載されているので納得してしまうのですが、自分の会社の製品に置き換えると『?』となってしまいます。それは販売している製品、購入する顧客、自社の業界における地位などが違うので、同じように作るのは難しいのです。なので、できるだけ簡単に下記のように考えてみて下さい。
1)誰に売るの?(セグメンテーション・ターゲティング)
2)どういう価値(差別化)で勝負をするの?(ポジショニング)
大量にモノが売れていた時代と違い、今は少ない商談チャンスを最大限に生かさなければなりません。そうなると分母(対象顧客)が多くて勝ち目のあるターゲットを選出するのが最も効率が良くなります。これがセグメンテーションであり、ターゲティングです。製品軸が多ければ、まずその製品の購買層を見つけ(セグメンテーション)、その購買層のどこ(年齢だったり収入だったり、性別だったり)をターゲット(ターゲティング)にするのか、のようになりますし、製造メーカーのようにお客様が見えている時は、ターゲティングだけでも良いと思います。
先ほどの『ドリルと穴』の話で例えると、棚を取り付けるために2個ぐらい穴を空けたいお客様がターゲットなら、価値(差別化要素)は穴あけ出張サービスなどが考えられると思いますし、1時間に100個の穴を空けたいユーザーがターゲットなら、価値(差別化要素)は高速の自動化された機械であったり、ドリルのサブスクリプションビジネスなども考えられると思います。
どうやって販売するのか?(4P/4C)
売り先が決まれば、いよいよどのうようにして販売するのか?ということですね。マーケティング的には戦術実行とかマーケティングミックスなどと呼ばれています。これを考える時にマーケティングの4Pが使われます。Product(製品戦略)、Price(価格戦略)、Place(流通戦略)、Promotion(コミュニケーション戦略)ですね。マーケティングミックスというくらいだから、それぞれにいろいろな施策があるのですが、BtoB系製造メーカーはこの4つの中でどこに重要度を置いて販売するのか、という考え方をした方がいいでしょう。
上記図でいうと、この3項目ですね。
1)価格の設定(プライシング)・・・お客様の価値に対する対価を決める(費用対効果を明示し、原価+利益のプライシングはしない)
2)販売数と収益の予測・・・上記価格に対する販売数の見込みと収益の見通しを最低3年、できれば5年のKPIを立案する
3)販促計画・・・①お客様向け販促、②販売員向けの教育、③サービス向けの技術指導についてスケジュール立案する
いかがでしたでしょうか?非常に簡易的な資料ですが、教科書よりだいぶわかりやすく立案しやすくなりませんか?この骨格に、環境分析であれば、いろいろなフレームワークを使用し、外部環境や内部環境を分析しますし、基本戦略であればSTPそれぞれに、もう少し詳細な考察を加えます。マーケティングミックスであれば、4Pそれぞれに対し戦略があり、どの分野にどの戦略を組み合わせていけば、販売量の極大化に繋がるのかを検討していくだけの話です。
いつもの通り長くなってしまいました。でも非常に重要な話をさせて頂いたと思います。では次回、ごきげんよう!
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