通常業務の忙しさと、ブログ繋がりで新しい出会いなどもあり、かなり長い充電期間をおいてしまいました。しかし、モチベーションの高い人って本当にたくさんいるんですね。私も53歳ですが、日々勉強と再認識した1ヶ月でした。さて今回は、『新しい製造業のアフターサービス【第71回】』で少し触れた製造業のサブスクリプションビジネスの可能性について説明してみたいと思います。今回のテーマは日常業務に近い部分もあるので、なるべく誰にでも理解しやすいよう書くことに努めたいと思います。
サブスクリプションとは
サブスクリプションビジネス
現在の世の中はサブスクリプションビジネスにあふれています。特にBtoCビジネスにおいて、お客様(消費者)の製品選択の軸は所有から利用へ変わってきています。
サブスクリプションとは毎月一定額を支払うことで受けることができるサービスのことで、当然ながら最近になって生まれたビジネスではありません。例えば、新聞などは昔から月額料金を支払うことで毎朝、新聞が届きます。これはサブスクリプションですね。
私は比較的、モノを自分で所有したい派(というかモノに対する物欲が極めて少ない)ですが、それでもいくつかのサブスクリプションサービスを利用しています。ひいきのプロ野球チームを全試合観戦することができるスポーツストリームサービス『パリーグTV』やYoutube動画を広告なしで、且つバックグランド再生できる『Youtube Premium』、英単語学習用のアプリ『Mikan』などに月額課金をしています。
いずれも自分の欲求に対して課金額(価値)が許容できるのだったので契約をしているわけですが、
たくさんあるサブスクリプションで成功している事例の条件は、まずその製品を欲しいという市場(お客様)の規模がどれだけあるかということです。
モノ余り時代の中、ネットなどの影響により個人の嗜好は昔のように画一的なものではなく、非常に多岐に渡ってきています。もちろん狭い市場を意図的に狙ってサブスクリプションビジネスを進めたいのであれば、それは競合がいない領域で収益性の高いビジネス展開ができるというメリットがあります。しかし、サブスクリプションビジネスの魅力は契約件数と契約期間がモノをいうビジネスです。サブスクリプションを展開する製品の魅力がどれくらい大きいのか?を見極めるのが1つ目の条件です。
製品の魅力(欲しい市場)の大きさ
また、私の事例を説明した際に『課金額が許容できる』と書きましたが、サブスクリプションビジネスは、単純な分割払いとは違います。お客様が得る欲求に対して、どれだけの支払いまで許容できるのかで価格が決定します。
私が契約しているプロ野球の試合をストリーム観戦できる『パリーグTV』のサービスは、月額約 \1,000です。平日は仕事があってほとんど見ないですし、また休日もCSやBSで見れる時はTV画面で見てしまうので、実質このサービスを利用するのは月に多くて10試合程度、つまり1試合\100ということになります。ひいき野球チームのファンであればそれほど高い価格ではないですし、どんな時でも観戦できる保険的な要素も加味すれば、十分許容できる価格です。このストリーミングサービスには、それ以外でも過去数年分の試合が閲覧できたり、各チーム、選手を特集した企画動画などもアップロードされていますので、私よりももっと思い入れの強いファン(こういう人は全試合現地観戦するのですが。。。)にとっては月額\3,000ぐらいの価値があるかもしれません。
まさにソリューションビジネスそのもののビジネスなわけです。
ちなみにオフシーズンは公式戦が無いので契約を解約します。公式戦の観戦が無ければ、私にとって\1,000の価値もなくなったからです。
モノ余り時代の中、ネットなどの影響により個人の嗜好は昔のように誰でも一緒ではなく、非常に多岐に渡っています。
サブスクリプションビジネスの成功は、製品に魅力を感じてくれているお客様(欲っする市場)に受け入れてもらえる価格になっているのかが2つ目の条件となります。そしてこれがサブスクリプションビジネスのキモになります。
サービス対象に対する月額料金の許容(妥当性)
この月額料金は安ければ安いほど、お客様の満足度は上がり契約件数、契約期間が大きくなることは言うまでもありません。サービス供給側は顧客満足度を維持しながら最大限月額料金を高める工夫が必要です。
サブスクリプションビジネスを製品の提供方法の1つと考えている人が多いと思いますが、これは間違った考え方です。原価に期待すべく収益を乗せ、それを12分割した金額を月額料金と考えていたら、分割払いと変わらず、またお客様も何の興味も示さないでしょう。ターゲットとするお客様の価値をベースにして『いくらであれば許容してくれるのか』を考え、月額料金を設定していかなければサビスクリプションビジネスは確実に失敗、または成立しないでしょう。
スーツのサブスクリプションを実行した紳士服店や、焼き肉のサブスクリプションを行った飲食店が短期間でサービスを撤退していったのも、このサブスクリプションの成功条件を見誤っていたからです。
現在、サブスクリプションビジネスで最も成功しているのは、音楽や動画配信サービスでしょう。NetflixやAmazon Primeなど動画配信サイトを複数契約している人も多いのではないでしょうか?何本映画を観ても、ドラマを何話視聴しても、1か月に数千円の月額料金を支払うだけで提供を受けられる動画配信サービスはサブスクリプションビジネスのモデルとなっています。
もちろん、コンテンツの質、量ともに素晴らしいのですが、これらの会社は絶えずお客様を観察(注視)し、改善や新しいサービスを提供し続けています。また憎らしいくらいにユーザーインターフェイス、つまり感覚的に操作できる機能が充実しています。俗にいうカスタマーエクスペアリアンス(CX)を高めているわけです。
実は成功の3つ目の条件は、こういったサブスクリプションサービスを飽きさせないことなのです。
せっかく獲得した新規契約者を放置し、新しいサービス(経験)もなく、いろいろな手続きやサポートも悪い(以前のサブスクリプションでありがちな解約は平日の電話対応だけなど)となると、すぐにお客様は離れていってしまいます。
新聞の定期購読時代とは違い、今のサブスクリプションビジネスは顧客とデジタルで接続されています。サービスを提供すると同時に莫大な顧客の行動データを獲得することができるのが現在のサブスクリプションビジネスの隆盛に繋がっているのです。
言い方は悪いですが『釣った魚の世話を手厚く行う』ことも、このビジネスを行う上で必ず意識する必要があると考えます。
利用顧客のニーズを追いかけ、常にサービス改善
BtoB系製造業のサブスクリプション
ではBtoB系製造業はどのようにサブスクリプションビジネスを展開すれば良いのでしょうか?残念ながら、現時点で私自身も、この問いに明確に答えらません。但し、BtoB系製造業がサブスクリプションビジネスを展開する上で障害になっているものはいくつかわかってきています。
それをひも解くためには、先ほどの章で説明をしたサブスクリプションビジネスで成功している動画配信サービスは、なぜうまく機能しているのかを検証する必要があります。
①製品特性の違い(自社製品と他社製品)
BtoB製造業の場合、サブスクリプション化するサービスも当然自社のリソース(製品、またはサービス)を活用します。そのため提供するサービスがかなり限定されてしまうのです。そのため提供するサブスクリプションサービスの内容が質・量ともに貧弱で従来の売り切り製品とサービスの魅力度が変わらず、ただの分割払いのイメージとなってしまうのです。
ご存じの通り動画配信サイトはコンテンツをいろいろなメディア会社から購入してサービスを提供しているプラットフォーム会社です。そのため、ディズニーでもポケモン、韓流ドラマでも扱うことができ、そのためコンテンツの質・量が膨大になり、お客様の契約のハードルが大きく下がります。
DVDレンタルの時代であれば1枚借りて300円を払っていたものが全てのレーベルが見放題で3,000円は非常にお客様の欲求を満たすものと言えるでしょう。
②原価の違い
BtoB製造業の場合、サブスクリプションサービスとして提供したい製品やサービスは1つ1つに原価が発生するものが多いです。それは提供する製品の原価だったり、サービスに対する人件費などです。契約者が増えてくれば多少、大量発注などで原価が下がることはあるかもしれませんが、このビジネスストラクチャーでサブスクリプションビジネスを展開している場合、常に固定費として原価がついてきてしまいます。
単純に原価だけを比較した場合、動画配信サイトの原価は驚くべき金額でしょう。たとえば前述したディズニーの映画の版権などは相当な金額になると思います。しかし、そこからは割り算なのです。
サービスの配信もネットを経由してコストをあまりかけることなく提供でき、契約者数が増えれば増えるほど原価は割り算されていきます。つまり契約数を伸ばせば収益性がどんどん良くなるわけです。
これはサブスクリプションのビジネスでは最も欠かせない要素なのですが、BtoB系製造業が最もつまづいてしまうところでもあるのです。
③お客様(購買者)の違い【個人と法人】
BtoB製造業の場合、サブスクリプションサービスを具体的に利用する人と実際に契約をして月額料金を支払う人(購買者)が違う場合が多いです。こういう状況を持っている場合は致命的で、いくら顧客課題を見つけて価値提供をしてもサブスクリプションはおろか製品、サービスの販売もまとまらないでしょう。
利用者のメリットを購買者にしっかりと説明し、まずは購買者に提供するサービスの価値をしっかりと伝えておくことはサブスクリプションビジネスを進めるうえでの第一歩です。
動画配信サイトなどでは購買者は利用者です。そのため決定も迅速で、契約も携帯端末のみ数分で行われます。こういった入口、出口のユーザーインターフェイスの良さもサブスクリプションビジネスでは重要な要素となりますが、BtoB系製造業の場合、契約が携帯端末で行われることは稀で、せいぜい専用サイトから登録(契約)フォーム経由がいいところでしょう。
この顧客接点のハードルをいかに下げられるかもBtoB系製造業がサブスクリプションビジネスに乗り出す重要なポイントと言えます。
残念ながら私も道半ばで、この課題を解決するに至っていません。ただこの3つをクリアするビジネスモデルを考え、成立した時にBtoB製造業が新しい収益を掴み、次のステージに進むチャンスだと切に感じています。
まずできることは、最初の章で説明をした、製品・サービスの魅力向上、その価値の許容範囲の発見、そしてデジタルで顧客と繋がること(IoT技術活用)を整え、上記3つのハードルを乗り越えていきましょう。(今回はちょっと問いかけになってしまいました、すみません。)
今回、ご紹介する書籍は、『サブスクリプション~「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル』(ティエン・ツォ/ゲイブ・ワイザード著【2018年10月】)です。
本投稿の参考にしたというよりも、今回の3つの問題を解決するためのヒントが欲しくて、前から気になっていたのですが、ちょうどお盆休みに書店に行った際、平積みされていたのですぐ手に取ってしまいました。事例が非常に多岐にわたって書かれているので、いろいろな業種のサブスクリプションビジネスの参考になるのではないかと思います。
さて久しぶりの投稿となり、またテーマが実務に近いところなのでうまくまとまるか心配でしたが、アウトラインについては伝えられたのではないかと思います。
本件は、成熟市場で製造業が生き残るための重要な課題です。正直、先進国では製品、特に工業製品の販売はどう考えても伸びていかないでしょう。そうなると販売した製品で、どのように稼いでいくのがが重要施策になるのですが、これだけを考えてビジネスを構築すると、お客様が離れていきます。
現在はWin-Winが絶対な時代です。それを実現できるのはサブスクリプションビジネスしかないと感じています。
まだまだ製造業におけるサブスクリプションは考えつくされているとは思っていません。みなさんの会社で自社の製品の魅力、お客様の課題を可能な限り深堀りしていくことで見えてくるのではないでしょうか?では、今回はこれまでです。また次回、ごきげんよう!
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